徐々に石が並びつつある。北原課長が雨の予報を聞き、敷いた石の上に濾過した土を少しづつかぶせた。
苔が忍び寄ってきた。悪い気はしないが木造の建物には良くない。
雨が降り始めた。
まさか3日も降り続くとは思わなかった。
まさにこのようなことをいうのだろう。
綺麗に洗われた苔も、
更に活性化して増えそうだ。
今からとても楽しみだ。
外の仕事が出来ないので、
工房の中を整理したり、
やりかけの復活作業を再開したり、
各担当者が様々な役割を進める。
それがいわゆる当社の「活力朝礼」だ。
出しやすいように整然と並べなおした。
中古パーツのために作った、
これらのラックが大いに役立つ。
素材まで信用を失う大失態を演じた。
まるで底が抜けたように混乱が始まるだろう。
そういう時に大切なのが、
原点とは何かを見つめることだ。
SUBARUは初めて作った自動車用の量産エンジンを覚えているだろうか。
ようやくここまでたどり着いた。
しかし道はまだ長い。
SUBARUも忘れたに決まっている。
エンジンの形や形式は覚えているだろうが、
どんな素材がどこに使われているかまで覚えている社員は少ないだろう。
ルーツを疎かにする会社は、
きっと何かを忘れている。
ひとりじゃだめで、
みんな揃って磨くことだ。
他所との違いを忘れないためだ。
吉村整備士が熱心に茶色くなっていたパーツを磨いた。
磨かないと絶対にわからない。
当時のアルミは今より品質が良かったのではないだろうか。
うわべは立派だが、
錆びた会社になっていた。
磨かなかったつけが回ったのだろう。
50年以上前のオルタネーターは回すと軸が回転する。
杉本整備士だと、
この部品の役割や意味が分からない。
北原、吉村の両整備士にとって、
これがあたり前の物体だとしても、
磨いて磨きぬいて本性を現すと、
強烈に興味が湧いてくる。
彼らに磨かれる順番を待っている。
古いものばかりではなく、
新しい中古部品も磨く対象だ。
北原課長が一つ一つ丁寧に汚れを落とし、
次々に商品として生まれ変わる。
素晴らしい空間に更なるスパイスが降り注がれるだろう。
美しく飾れば次の命が芽生え始める。
女性の力が大いに求められとても役立つ。
好きなように飾り、
古い年式のクルマにつける、
スポーツパーツなどは飾り方が芸術の域に入った。
それをキャンパスにしてデザインする。
それも美しくやりがいのある仕事だ。
全てSUBARUのための部品だが、
それ以上にオブジェとして美しい価値を持っている。
既にヒストリックカーの領域に足を踏み入れた。
先週一通の案内が届いた。
株式会社デンソーコミュニケーションから、
伊藤取締役が来訪された。
あまり知られていないが、
隠れた大発明を持っている。
その場所固有の数値だ。
ドクターカーを製作するに当たり、
最低要件と指定された重要なアイテムだった。
ドクターカーが現場に急行するのに不可欠なコードだ。
ドクターカーにはマップコードも送信される。
本部からのデジタル通信でそれを受け取ると、
ドクターカーのコドライバーは、
ナビにその数値を打ち込む。
3メートル以内の誤差で辿り着ける。
便利な代物だが、
一般的にはほとんど知られていない。
消防本部はどうして知っていたのか。
謎が解けた。
デンソーがこの地域のマップコードを中津川消防本部に供与していたからだ。
なぜ浸透しないのか。
マップコードのあり方を根本から見直した。
そして一気に世間に広めようとしている。
それが伊藤さんの大きな野望だ。
数値を打ち込むだけでそこまでナビゲートしてくれる。
富士山よりも、
右の釣りポイントに注目した。
これはおもしろいぞ。
今当社で展開している、
TBSという企画がある。
これをHP上で訪問先とセットしているが、
道順の案内など結構現実的に難しい。
最近の若者は地図に頼らないから、
余計に説明しにくい所がある。
頭に描いたのは、TBSを申し込まれたら、
もちろんHP上のお楽しみポイントも案内するが、
番号だけを書いた紙を封筒に入れ、
そっとインパネに置いておく。
中津スバルに来てSVXをレンタルした人だけが、
特別な場所へミステリアスに案内される。
そんな新たなアイディアが閃いた。
つづく