デジタル表示は85km/だが、指針計の方はそれ以下を指している。アナログは時間軸に沿って揺らぐから、デジタルに比べると曖昧だ。 まあ、それで良いじゃ無いかと思う。アナログメーターも、速度データはデジタルだ。
昔はトランスミッションに速度計のギヤがあり、ケーブルを回転させメーターを動作させ。最後までサンバートラックは超アナログだったが、平成18年のビッグマイナーチェンジでデジタル化された。その時、様々なベアリングなどの形状も見直し、フリクションを徹底的に取り除いた。その変わり様は鮮やかで、一つ一つの積み上げが如何に大切かを感じ取った。
クルマは既存技術の蓄積だ。
デジタル化で無駄が減り、効率も良くなり、細かい制御が可能になった。
ドンドン良くなるが、アナログメーターを液晶表示すると、なんだか味が薄くなったように感じる。
言われてみればその通りだった。S207のルミネセントメーターは文字の色が違う。
他はまるきり同じだが、夜は2台並べて乗らなかったので、「そう言えばS207の方がスッキリしていたかな??」と、今になって思う。
永島さん、ありがとうございました。
アナログ人間なので、しばしば緩いところがある。標準車がこの様に赤だから、
STIは白い文字に変えた。
なかなか手の込んだことをする。
もし逆だったらS207で少し暑苦しいくらいの赤を試したかもしれない。
2日間に渡るテストでS207の特徴を骨の髄まで味わった。
標準型のWRX STI(VAB)と比較できた事も、「最新のWRXとは何か!」を語る上で、非常に有意義だった。
伝統あるWRX STIは、両車とも真の性能に何の偽りも無かった。 だからS207から乗り換えても、
WRX STIが見劣りするわけでは無い。
むしろSTIにS207から乗り換えると、
硬いシートの座面が結構心地よい。
それではSTIからS207に乗り換えると、
どのように感じるのか。
まず完成度が高い。
全く別のクルマに乗っているような感覚だ。
動きが俊敏で拘束感が無く、
後席も快適だ。
何しろ静かで居住性も良い。
その上、
乗り心地も良い。
これらが大きな特徴だ。
後席に座った理由は、
オトナ3人で移動した時に、
「チャンスだ」と思ったからだ。
モータージャーナリストのマリオ高野は、
やはり着眼点が違う。
最初に後席に乗ると言い出したのは彼だ。
高速道路を走る時に、
「後席に乗りたい」と言った。
後席の快適性が気になるからだろう。
4ドアセダンでありながら、
パッセンジャーシートで苦痛を感じるようでは困るからだ。
彼曰く、
苦痛どころか、
とても刺激的だそうだ。
NBRチャレンジパッケージには、
空力特性と操縦安定性を高めるために、
軽量な炭素繊維で作られた大きなスポイラーが付いている。
この翼端板と言われる部分が、
S207と白く書かれた四角い部分だ。
これと大きく突き出たフロントスポイラーこそ、
ニュルブルクリンクの高速コースで安定性を高めた重要部品だ。
この軽いウイングが、
強烈なダウンフォースを産み出す。
後部座席で耳を澄ますと、
ウイングが風を切り離す音が聞こえるそうだ。
二人で出した結論は、
「後席居住性の確かさにも胸を張れる」ということだ。
水曜日は朝から快晴だった。
両車を比較するに相応しい天気になった。
「やっぱりWRブルーが最高だ!これを選んで良かったな」
そう思った瞬間だった。
STIの年度改良に合わせ、
TYPE-Sをテストした時、
すっかりWRブルーパールの虜になった。
抽選時には4色選べたが、
このブルーが最も良く似合うと結論づけた。
シフトレバーの根本に、
このクルマが只者では無い事を示す印がある。
伝統のシリアルプレートだ。
何となく007のロゴにも似通った、
スタイリッシュな車名に続き「000/400」と刻まれている。
これは顧客に渡る事の無い、
広報専用のゼロカーだ。
今回S207をテストして感じた事は、
ハイパフォーマンスカーでノルドシェライフェを走る事が、
如何に大切かと言う事だった。
過去5年間NBRでトレーニングを受けた経験は、
何事にも代えがたい重要な学びとなった。
従ってオンボード映像を見ただけで、
2015年のチャレンジマシンが、
どれほど完成度が高い仕上がりなのかすぐ解った。
路面の起伏に富み、
そのサーフェスに変化が激しいNBRでは、
まるでWRCのラリー車に要求されるような、
柔軟性に満ちあふれたサスペンションが必要だ。
NBRに於けるレースを想定すると、
「S」最速と言える202でも勝つ事は難しい。
ましてや203から206でも出場した車との間に乖離がある。
「S2系」ではニュルを攻める事は出来ても、
ヒラリヒラリと舞うように走れない。
トレーニングではBMWの「M」を使う。
M3は重いのが難点だったが、
その走りは舞うようだった。
BMWの「M」シリーズに出来る事が、
STIの「S2系」では困難だ。
S402は近いところまでいけたが、
速さが足りなかった。
でもS207なら互角だろう。
これなら「グリーンヘル」で走りを存分に楽しめる。
今回の207瞬足完売も、
「NBR24時間レース優勝記念」という金字塔があったからこそ成し得た。
その証拠の一つを見た。
いつもベンチマークテストする場所で、
S207が驚異的な身体能力を垣間見せたからだ。
下りの高速ワインディングだ。
抜群に良い道だが下りきる手前で路面がうねる。
見ただけでは路面の変化が解らないので、
うっかりブレーキングに失敗すると大変だ。
その後のボトム部分から先が登りの左ターンになると同時に、
道幅が3分の一以下に狭まる。
高速でブレーキングしながら荒れた路盤に踏み込むと、
まるでニュル同然のバンピーな場所を、
あっさりと4輪が抑え込んだ。
抑え込むと言うより、
タイヤが小気味よくアスファルトを吸い上げ、
車体をフラットに維持するような優れたサスペンションフィーリングだった。
こんな鮮やかな車体安定性能は、
標準車には無い。
特別な部品で高度に組み上げたから、
鋭い走りも可能になる。
磨き続けられるEJ20型エンジンは、
特に大きく性能向上したわけでは無い。
だからS202に感じた狂気じみた凶暴性と天秤に掛けると、
動力性能ではそちらが上に思える。
ところが実際にS207の気持ち良さと、
S202の凶暴性を比べると、
クルマの速さに必要な「要素」が根本的に理解出来る。
最新のEJ20はベース車の308馬力から、
20馬力引き上げられたに過ぎない。
過去最高の出力を誇るが、
実質的な動力性能の変化はほとんど無い。
実際にエンジンの性能曲線を見ても、
「やれるだけやった」と言う努力は感じるが、
公差の許容値を最大値に揃えたようなレベルだ。
だから速さだけをフォーカスすると、
決してずば抜けて速い訳では無い。
ところがなぜ「凄い」と感じるのか。
バランスドエンジンは元々アクセルのツキが良いので、
回転数のコントロールが足先で容易に出来る。
だから発進する時に、
もう気持ち良さが倍くらい違う。
昔のアナログ式スロットルは天然物で、
今の電子制御スロットルは養殖物だと言ったら言いすぎだと叱られるかもしれない。
でもそれくらいに味の差が出ていた。
最新式のクルマは全てにおいて縛りが多い。
色々なデバイスや法規を考慮し、
一旦標準仕様が決められると、
それを直ぐ変更する事はまず無理だ。
そこに手を入れられるのも「S」の魅力だろう。
各種電子制御には「閾(しきい)値」がある。
それを専用のターボチャージャーや排気系に合わせた統合ユニットで見直した。
ECUと一言で表されているが、
いまやエンジンだけで無く駆動系や制動系も全てトータル管理され、
以前のような単純な構造では無い。
STIオリジナルの制御用コンピューターは、
天然物の味を完全に蘇らせた。
エンジンも重要だが、
ブレーキのストッピングパワーがあるからこそ328馬力が成り立つ。
ブレンボ製のモノブロック6POTキャリパーは、
既にお馴染みのS専用パーツだ。
これをフローティングローターと組合せ、
ノルドシェライフェでフルアタックできる、
高いレベルの制動能力に仕上げていた。
リヤにも特別製のブレーキが奢られ、
バンパーにダクトが付いた。
ただし完全なイミテーションだ。
タイヤとブレーキは最も重要な構成部品だ。
特にタイヤの径を標準車より大きくし、
幅を広げれると莫大な開発費が必要になる。
タイヤを大きくしてグリップ力を高めると同時に、
ブレーキ能力を強化して動力性能と釣り合いを取らせる。
そろそろ冬タイヤが欲しいが、
それだと本当の性能が確かめられない。
気温が7℃以上あればサマータイヤで十分だ。
幸いにもこの日の気温は10℃を下回ることが無く、
ダンロップの性能を充分に試せた。
しかも翌日、
雨の路面も試すことが出来たので、
実に多彩な環境下でこのタイヤの良さを知ることが出来た。
それに対して、
STIにはコンチネンタルのCVC6が装着されている。
2台連なりテストに向かった。
一般路でも明確な差が出る。
S207は舵の効きが良いと言うより、
魔法が仕込まれている感じだ。
ヒラリヒラリと走る為には、
ステアリングシステムも大切な役割を担う。走り出して直ぐ効果が解った。
時速20㎞から30㎞の速度域で、
標準車だと路面との接し方によって素直に舵が効かない所を、
ステアリングホイールに僅かな力を加えただけで、
クイッと向きを変える。
これが「引っ張られるように自分で正しく首を振る」印象だ。
首を振ると言っても危ないわけでは無く、
思った量で思った方向に動くと言うことだ。
これが量産する標準車で一番思うように行かない部分で、
常に拘束力のような身動きのもどかしさを感じる。
それがS207は一気に解き放たれ、
自由自在に操れる感覚が素晴らしい。
この速度領域になると、
さらに乗り心地が良いだけで無く、
拘束感が微塵も感じられないばかりか、
蝶のようにヒラリヒラリと自由に舞う感覚が頭をもたげる。
そもそもSTIだけが油圧パワステを持つ。
理由は簡単で、
この方が天然モノの旨さを感じ、
デジタルの電動パワステは、
質は揃っていても養殖キノコのようにコクが無い。
しばらく運転して感じたが、
美味しいと感じる確かさを得るためには油圧によるアシストが絶対に必要だ。
それに11:1というクイックなステアリングギヤボックスを組み合わせると、
出来の悪いクルマならナーバスになる。
S207が神経質で乗りにくいクルマにならない理由は、
ボディワークが良くてリヤサスが踏ん張るからだ。
それと、
新しいダンプマチックⅡと呼ばれるダンパーの効果だ。
このサスペンションに、
更にテンションを掛けるSTI独自のパーツが、
クルマ全体を絶妙に調律して、
自由で伸び伸びとした動きに変えている。
だからアクセルワークからステアリングワークへ、
繋がる一連の操作に対する反応が言いようのないほど気持ち良い。
それが扱いやすさに繋がり、
その上高いグリップ性能を両立しているので、
実質的なパワーアップに頼らなくても、
S207を異次元の速さにした。
ここからS207を降りて、
マリオと運転を代わった。
標準車に乗り換え、
次の目的地に向かった。
後ろに続くSTIに乗り込むと、
まあこれもなかなか良いと感じる。
ところがSTIからS207に乗り換えると印象は全く別だ。
右の白いインプレッサスポーツと、
STIの差が、
S207とSTIの差に繋がる。
それぐらい違って当然だ。
標準車とS207の価格差は234万円。
おおよそフォレスターの車両価格に相当する。
そう考えると、標準車も決して価格的に高くない。改めて乗ると良さが解る。
日本車で有りながら他に類を見ない性能を持ち、
シートの座り心地も「ピシッ」といクルマだ。
ただバランスドエンジンに勝ち目が無いのは明白で、
走り始めのスムーズさは元論、
この様な中速領域で、
スロットルに応じて正確に呼吸するように加速するところが堪らなく良い。
開田高原に到着した。
S207に再び乗り換えサスペンションを比較した。
ビルシュタインダンパーは、
本来操縦性を大きく改善し、
相反する乗り心地も上質にする力を持つが、
但し弱点もある。
その独自構造のためなのか、
「ある種」の僅かな段差で、
フロントサスに見た目以上の衝撃を感じる時がある。
縮み側のスプリングの動きを阻害するように、
ガツンとダイレクトな衝撃を受ける。
ダンパーがきちんとストロークしない印象だ。
特に姿勢を下げたクルマでそれが顕著に現れた。
VABがデビューした時もその傾向が見受けられたので、
Type-Sでは無く標準車を導入した。
カヤバ製のダンパーも高いレベルまで育ったので、
衝撃吸収力を優先した。
気に入らなければ、
後で作れば良いと思ったからだ。
クルマとって大した問題では無くても、
ドライバーの感じる不快感は少なからずあった。
この日の御嶽山は、
真っ白な水蒸気を絶え間なく噴き出していた。
自然に手を合わせたマリオを見て、
「良いオトコだな」と感じた。
素直な人間は生き方が美しい。
木曽馬の里を起点にして、
代わる代わる乗り比べた。
Type-Sは今夏のマイナーチェンジで弱点を克服したが、
その上を行くS207はどれほどのレベルなのか。
早速マリオがS207を走らせた。
先のブログで紹介した動画より、
現実のサウンドは遙かに良い。
外から走りを見た限りでは、
決して柔らかいサスペンションでは無い。
特に激しいワインディングで後ろに着けると、
ピタリと地面に貼り付き、
ロールもせずに俊敏だ。
この手のサスにありがちな、
ピョンピョン跳ねる挙動も皆無。
硬い脚にするとどうしても跳ねるが、
S207はあらゆる路面、
あらゆる速度域でその傾向を見せない。
いつも走る道路に、一カ所だけビルシュタインが最も苦手とする場所がある。そこを何の素振りも見せずに駆け抜ければ、S207の脚に100点を与えようと思った。
歴代のレガシィも、
ビルシュタイン装着車はその場所をほぼ100%苦手とし、
そこを通過するだけで、ビルシュタイン装着か、そうで無いかを、体で感じられるほどの場所だ。
特に軽くブレーキングしながら、荷重を前輪にかけると、そこを通過する瞬間に激しいショックを感じる。
その場所の僅かな段差を高速で駆け抜けた。
S207のダンプマチックⅡは、
全く音を上げなかいどころか極めて快適に走り抜けた。
S207は255/35R19と、
歴代のスバル車で最も大きなタイヤを履く。
ホイールを含めたタイヤの重量もかなりあるはずだ。
それをバタつかせず路面に吸い付くように治めるには、
かなり伸び側の減衰力を高めたはずだ。
クルマの挙動をゆらりとさせない以上、
かなりバネレートも高いに違いない。
それなのになぜこれほど乗り心地が良いのだろうか。
雨のワインディングはなおさらクルマの挙動と、
タイヤのグリップ力が良く解る。
接地性の悪いサスだと、
滑りやすさを一段と誘発し、
挙動が乱れて走り難い。
ところがこのクルマは、
そんな事を微塵も感じさせない。
ここでもS207は特に大きな変化も無く、
スムーズに走り抜けた。
ビルシュタインのダンパーは、
ワッシャーのような特殊な薄い金属膜を重ね合わせ、
バルブの働きをさせている。
ダンプマチックⅡはそれらに加え、
もう一つの特殊なバルブを持っている。
それはコンフォートバルブと言い、
ゴムで出来た2つめのバルブを前輪側に仕込んだ。
この効果が素晴らしく、
これまでのビルシュタインサスペンションとは次元の違う乗り心地と、
これまで同様の高い剛性感を更に際立たせた。
横剛性の高さが、
11:1のステアリングギヤレシオと高いレベルで調和し、
ステアリングを切った時の確かさに現れている。
乗り心地が良いと走りがスポイルされるという方程式は、
現在のスポーツカーに通用しない。
硬いサスがスポーティなのは昔の話だ。
複雑な路面のうねりを、
高速で乗り越えながら瞬時に収束させるには、
高精度にチューニングされたダンパーとスプリング無しではあり得ない。
ここにニュルブルクリンクでの経験が絶妙に練り込まれている。
それをSTIのフレキシブルパーツでサポートし、
動きをバランスさせた事で気持ちの良い乗り心地が生まれた。
大宮と杉本がそれぞれ素直な感想を語っている。
若い読者にはとても親しみが湧く内容だ。
最後にそれを動画にしてレポートを終える。
大宮感想
杉本感想
昔はトランスミッションに速度計のギヤがあり、ケーブルを回転させメーターを動作させ。最後までサンバートラックは超アナログだったが、平成18年のビッグマイナーチェンジでデジタル化された。その時、様々なベアリングなどの形状も見直し、フリクションを徹底的に取り除いた。その変わり様は鮮やかで、一つ一つの積み上げが如何に大切かを感じ取った。
クルマは既存技術の蓄積だ。
デジタル化で無駄が減り、効率も良くなり、細かい制御が可能になった。
ドンドン良くなるが、アナログメーターを液晶表示すると、なんだか味が薄くなったように感じる。
言われてみればその通りだった。S207のルミネセントメーターは文字の色が違う。
他はまるきり同じだが、夜は2台並べて乗らなかったので、「そう言えばS207の方がスッキリしていたかな??」と、今になって思う。
永島さん、ありがとうございました。
アナログ人間なので、しばしば緩いところがある。標準車がこの様に赤だから、
なかなか手の込んだことをする。
もし逆だったらS207で少し暑苦しいくらいの赤を試したかもしれない。
2日間に渡るテストでS207の特徴を骨の髄まで味わった。
標準型のWRX STI(VAB)と比較できた事も、「最新のWRXとは何か!」を語る上で、非常に有意義だった。
伝統あるWRX STIは、両車とも真の性能に何の偽りも無かった。
WRX STIが見劣りするわけでは無い。
むしろSTIにS207から乗り換えると、
硬いシートの座面が結構心地よい。
それではSTIからS207に乗り換えると、
どのように感じるのか。
まず完成度が高い。
全く別のクルマに乗っているような感覚だ。
動きが俊敏で拘束感が無く、
後席も快適だ。
何しろ静かで居住性も良い。
その上、
乗り心地も良い。
これらが大きな特徴だ。
後席に座った理由は、
オトナ3人で移動した時に、
「チャンスだ」と思ったからだ。
モータージャーナリストのマリオ高野は、
やはり着眼点が違う。
最初に後席に乗ると言い出したのは彼だ。
高速道路を走る時に、
「後席に乗りたい」と言った。
後席の快適性が気になるからだろう。
4ドアセダンでありながら、
パッセンジャーシートで苦痛を感じるようでは困るからだ。
彼曰く、
苦痛どころか、
とても刺激的だそうだ。
空力特性と操縦安定性を高めるために、
軽量な炭素繊維で作られた大きなスポイラーが付いている。
この翼端板と言われる部分が、
S207と白く書かれた四角い部分だ。
これと大きく突き出たフロントスポイラーこそ、
ニュルブルクリンクの高速コースで安定性を高めた重要部品だ。
この軽いウイングが、
強烈なダウンフォースを産み出す。
後部座席で耳を澄ますと、
ウイングが風を切り離す音が聞こえるそうだ。
二人で出した結論は、
「後席居住性の確かさにも胸を張れる」ということだ。
両車を比較するに相応しい天気になった。
「やっぱりWRブルーが最高だ!これを選んで良かったな」
そう思った瞬間だった。
STIの年度改良に合わせ、
TYPE-Sをテストした時、
すっかりWRブルーパールの虜になった。
抽選時には4色選べたが、
このブルーが最も良く似合うと結論づけた。
このクルマが只者では無い事を示す印がある。
伝統のシリアルプレートだ。
何となく007のロゴにも似通った、
スタイリッシュな車名に続き「000/400」と刻まれている。
これは顧客に渡る事の無い、
広報専用のゼロカーだ。
今回S207をテストして感じた事は、
ハイパフォーマンスカーでノルドシェライフェを走る事が、
如何に大切かと言う事だった。
過去5年間NBRでトレーニングを受けた経験は、
何事にも代えがたい重要な学びとなった。
従ってオンボード映像を見ただけで、
2015年のチャレンジマシンが、
どれほど完成度が高い仕上がりなのかすぐ解った。
路面の起伏に富み、
そのサーフェスに変化が激しいNBRでは、
まるでWRCのラリー車に要求されるような、
柔軟性に満ちあふれたサスペンションが必要だ。
NBRに於けるレースを想定すると、
「S」最速と言える202でも勝つ事は難しい。
ましてや203から206でも出場した車との間に乖離がある。
「S2系」ではニュルを攻める事は出来ても、
ヒラリヒラリと舞うように走れない。
トレーニングではBMWの「M」を使う。
M3は重いのが難点だったが、
その走りは舞うようだった。
BMWの「M」シリーズに出来る事が、
STIの「S2系」では困難だ。
S402は近いところまでいけたが、
速さが足りなかった。
でもS207なら互角だろう。
これなら「グリーンヘル」で走りを存分に楽しめる。
今回の207瞬足完売も、
「NBR24時間レース優勝記念」という金字塔があったからこそ成し得た。
その証拠の一つを見た。
いつもベンチマークテストする場所で、
S207が驚異的な身体能力を垣間見せたからだ。
下りの高速ワインディングだ。
抜群に良い道だが下りきる手前で路面がうねる。
見ただけでは路面の変化が解らないので、
うっかりブレーキングに失敗すると大変だ。
その後のボトム部分から先が登りの左ターンになると同時に、
道幅が3分の一以下に狭まる。
高速でブレーキングしながら荒れた路盤に踏み込むと、
まるでニュル同然のバンピーな場所を、
あっさりと4輪が抑え込んだ。
抑え込むと言うより、
タイヤが小気味よくアスファルトを吸い上げ、
車体をフラットに維持するような優れたサスペンションフィーリングだった。
こんな鮮やかな車体安定性能は、
標準車には無い。
特別な部品で高度に組み上げたから、
鋭い走りも可能になる。
磨き続けられるEJ20型エンジンは、
特に大きく性能向上したわけでは無い。
だからS202に感じた狂気じみた凶暴性と天秤に掛けると、
動力性能ではそちらが上に思える。
ところが実際にS207の気持ち良さと、
S202の凶暴性を比べると、
クルマの速さに必要な「要素」が根本的に理解出来る。
最新のEJ20はベース車の308馬力から、
20馬力引き上げられたに過ぎない。
過去最高の出力を誇るが、
実質的な動力性能の変化はほとんど無い。
実際にエンジンの性能曲線を見ても、
「やれるだけやった」と言う努力は感じるが、
公差の許容値を最大値に揃えたようなレベルだ。
だから速さだけをフォーカスすると、
決してずば抜けて速い訳では無い。
ところがなぜ「凄い」と感じるのか。
バランスドエンジンは元々アクセルのツキが良いので、
回転数のコントロールが足先で容易に出来る。
だから発進する時に、
もう気持ち良さが倍くらい違う。
昔のアナログ式スロットルは天然物で、
今の電子制御スロットルは養殖物だと言ったら言いすぎだと叱られるかもしれない。
でもそれくらいに味の差が出ていた。
最新式のクルマは全てにおいて縛りが多い。
色々なデバイスや法規を考慮し、
一旦標準仕様が決められると、
それを直ぐ変更する事はまず無理だ。
そこに手を入れられるのも「S」の魅力だろう。
各種電子制御には「閾(しきい)値」がある。
それを専用のターボチャージャーや排気系に合わせた統合ユニットで見直した。
ECUと一言で表されているが、
いまやエンジンだけで無く駆動系や制動系も全てトータル管理され、
以前のような単純な構造では無い。
STIオリジナルの制御用コンピューターは、
天然物の味を完全に蘇らせた。
エンジンも重要だが、
ブレーキのストッピングパワーがあるからこそ328馬力が成り立つ。
既にお馴染みのS専用パーツだ。
これをフローティングローターと組合せ、
ノルドシェライフェでフルアタックできる、
高いレベルの制動能力に仕上げていた。
リヤにも特別製のブレーキが奢られ、
バンパーにダクトが付いた。
タイヤとブレーキは最も重要な構成部品だ。
特にタイヤの径を標準車より大きくし、
幅を広げれると莫大な開発費が必要になる。
タイヤを大きくしてグリップ力を高めると同時に、
ブレーキ能力を強化して動力性能と釣り合いを取らせる。
そろそろ冬タイヤが欲しいが、
それだと本当の性能が確かめられない。
気温が7℃以上あればサマータイヤで十分だ。
幸いにもこの日の気温は10℃を下回ることが無く、
ダンロップの性能を充分に試せた。
しかも翌日、
雨の路面も試すことが出来たので、
実に多彩な環境下でこのタイヤの良さを知ることが出来た。
それに対して、
STIにはコンチネンタルのCVC6が装着されている。
一般路でも明確な差が出る。
魔法が仕込まれている感じだ。
ヒラリヒラリと走る為には、
ステアリングシステムも大切な役割を担う。走り出して直ぐ効果が解った。
時速20㎞から30㎞の速度域で、
標準車だと路面との接し方によって素直に舵が効かない所を、
ステアリングホイールに僅かな力を加えただけで、
クイッと向きを変える。
これが「引っ張られるように自分で正しく首を振る」印象だ。
首を振ると言っても危ないわけでは無く、
思った量で思った方向に動くと言うことだ。
これが量産する標準車で一番思うように行かない部分で、
常に拘束力のような身動きのもどかしさを感じる。
それがS207は一気に解き放たれ、
自由自在に操れる感覚が素晴らしい。
この速度領域になると、
さらに乗り心地が良いだけで無く、
拘束感が微塵も感じられないばかりか、
蝶のようにヒラリヒラリと自由に舞う感覚が頭をもたげる。
そもそもSTIだけが油圧パワステを持つ。
理由は簡単で、
この方が天然モノの旨さを感じ、
デジタルの電動パワステは、
質は揃っていても養殖キノコのようにコクが無い。
しばらく運転して感じたが、
美味しいと感じる確かさを得るためには油圧によるアシストが絶対に必要だ。
それに11:1というクイックなステアリングギヤボックスを組み合わせると、
出来の悪いクルマならナーバスになる。
S207が神経質で乗りにくいクルマにならない理由は、
ボディワークが良くてリヤサスが踏ん張るからだ。
それと、
新しいダンプマチックⅡと呼ばれるダンパーの効果だ。
このサスペンションに、
更にテンションを掛けるSTI独自のパーツが、
クルマ全体を絶妙に調律して、
自由で伸び伸びとした動きに変えている。
だからアクセルワークからステアリングワークへ、
繋がる一連の操作に対する反応が言いようのないほど気持ち良い。
それが扱いやすさに繋がり、
その上高いグリップ性能を両立しているので、
実質的なパワーアップに頼らなくても、
S207を異次元の速さにした。
ここからS207を降りて、
マリオと運転を代わった。
標準車に乗り換え、
次の目的地に向かった。
まあこれもなかなか良いと感じる。
ところがSTIからS207に乗り換えると印象は全く別だ。
右の白いインプレッサスポーツと、
STIの差が、
S207とSTIの差に繋がる。
それぐらい違って当然だ。
標準車とS207の価格差は234万円。
おおよそフォレスターの車両価格に相当する。
そう考えると、標準車も決して価格的に高くない。改めて乗ると良さが解る。
日本車で有りながら他に類を見ない性能を持ち、
シートの座り心地も「ピシッ」といクルマだ。
走り始めのスムーズさは元論、
この様な中速領域で、
スロットルに応じて正確に呼吸するように加速するところが堪らなく良い。
S207に再び乗り換えサスペンションを比較した。
ビルシュタインダンパーは、
本来操縦性を大きく改善し、
相反する乗り心地も上質にする力を持つが、
但し弱点もある。
その独自構造のためなのか、
「ある種」の僅かな段差で、
フロントサスに見た目以上の衝撃を感じる時がある。
縮み側のスプリングの動きを阻害するように、
ガツンとダイレクトな衝撃を受ける。
ダンパーがきちんとストロークしない印象だ。
特に姿勢を下げたクルマでそれが顕著に現れた。
VABがデビューした時もその傾向が見受けられたので、
Type-Sでは無く標準車を導入した。
カヤバ製のダンパーも高いレベルまで育ったので、
衝撃吸収力を優先した。
気に入らなければ、
後で作れば良いと思ったからだ。
クルマとって大した問題では無くても、
ドライバーの感じる不快感は少なからずあった。
真っ白な水蒸気を絶え間なく噴き出していた。
「良いオトコだな」と感じた。
素直な人間は生き方が美しい。
木曽馬の里を起点にして、
代わる代わる乗り比べた。
Type-Sは今夏のマイナーチェンジで弱点を克服したが、
その上を行くS207はどれほどのレベルなのか。
早速マリオがS207を走らせた。
先のブログで紹介した動画より、
現実のサウンドは遙かに良い。
決して柔らかいサスペンションでは無い。
特に激しいワインディングで後ろに着けると、
ピタリと地面に貼り付き、
ロールもせずに俊敏だ。
この手のサスにありがちな、
ピョンピョン跳ねる挙動も皆無。
硬い脚にするとどうしても跳ねるが、
S207はあらゆる路面、
あらゆる速度域でその傾向を見せない。
歴代のレガシィも、
ビルシュタイン装着車はその場所をほぼ100%苦手とし、
そこを通過するだけで、ビルシュタイン装着か、そうで無いかを、体で感じられるほどの場所だ。
特に軽くブレーキングしながら、荷重を前輪にかけると、そこを通過する瞬間に激しいショックを感じる。
その場所の僅かな段差を高速で駆け抜けた。
S207のダンプマチックⅡは、
全く音を上げなかいどころか極めて快適に走り抜けた。
S207は255/35R19と、
歴代のスバル車で最も大きなタイヤを履く。
ホイールを含めたタイヤの重量もかなりあるはずだ。
それをバタつかせず路面に吸い付くように治めるには、
かなり伸び側の減衰力を高めたはずだ。
クルマの挙動をゆらりとさせない以上、
かなりバネレートも高いに違いない。
それなのになぜこれほど乗り心地が良いのだろうか。
タイヤのグリップ力が良く解る。
接地性の悪いサスだと、
滑りやすさを一段と誘発し、
挙動が乱れて走り難い。
ところがこのクルマは、
そんな事を微塵も感じさせない。
ここでもS207は特に大きな変化も無く、
スムーズに走り抜けた。
ビルシュタインのダンパーは、
ワッシャーのような特殊な薄い金属膜を重ね合わせ、
バルブの働きをさせている。
ダンプマチックⅡはそれらに加え、
もう一つの特殊なバルブを持っている。
それはコンフォートバルブと言い、
ゴムで出来た2つめのバルブを前輪側に仕込んだ。
この効果が素晴らしく、
これまでのビルシュタインサスペンションとは次元の違う乗り心地と、
これまで同様の高い剛性感を更に際立たせた。
横剛性の高さが、
11:1のステアリングギヤレシオと高いレベルで調和し、
ステアリングを切った時の確かさに現れている。
乗り心地が良いと走りがスポイルされるという方程式は、
現在のスポーツカーに通用しない。
硬いサスがスポーティなのは昔の話だ。
複雑な路面のうねりを、
高速で乗り越えながら瞬時に収束させるには、
高精度にチューニングされたダンパーとスプリング無しではあり得ない。
ここにニュルブルクリンクでの経験が絶妙に練り込まれている。
それをSTIのフレキシブルパーツでサポートし、
動きをバランスさせた事で気持ちの良い乗り心地が生まれた。
若い読者にはとても親しみが湧く内容だ。
最後にそれを動画にしてレポートを終える。
大宮感想
杉本感想