このクルマもNBRで鍛えられたはずだ。
SUBARUが現在求める「動的質感」のベンチマークは、意外にもこのクルマだったりするかもしれない。
いよいよ一週間前になり、ドイツから召集令状が届いた。
でも到着直後の予定が少し変わったので、Sバーンでフランクフルト中央駅まで向かう。
フランクフルトに一泊するため、ホテルを予約した。
ドイツで教習に使用されるクルマは、BMWのM4だ。
今年でM4に乗るのは3度目だが、そのたびごとにNBRをWRXで走りたいと思う。
特に新しいVABのボディなら、NBRで十分楽しめるはずだ。一番試したいのはなんと言ってもS207だが、最新のS4も悪くない。
ここに紹介するのは、先月から本格的に販売が始まったばかりの、最も新しいWRX S4だ。
姿形に変化は無いけれど、内に秘めた性能は年を追うごとに熟成を重ねている。
福岡人さんから八女茶を頂いた。
いつも以上に新茶の玉露が美味しくて、とても奥が深い。この奥の深さをS207と重ね合わせることが出来る。
WRXの場合は、それらの甘さの上にコクと旨味が頭を出す。
ステキなお茶のおかげで、毎朝飲むコーヒーを止める事ができた。
というのも、一日に何杯も飲み過ぎて、少し健康を考え自制する必要を感じていた。
丁寧な説明が添えられている。お茶の正しい入れ方だ。
沸かしたお湯に直接水を入れ温度を調節するだけだ。
擂り潰してご飯にまぶし、お茶漬けにすると美味しいだろう。
このような味わいを、クルマに装着されたダンパーからも感じることが出来る。良く熟成された足回りは、とてもしなやかな旨味と、地面に吸い付くようなコクを出す。
慣れてくると美味しく感じるようになる。
柔らかくなったお茶の葉は、あのときのキャッサバより美味い。
なんと言っても一番S207と共通するところだ。
VAB型WRX STIは、
まだデビューして3年目に入ったばかりだ。
その新しいボディを使って、
STIがコンプリートカー「S207」を作れた理由は、
NBR24時間レースで優勝したからに他ならない。
S206の誕生から4年ほど間が開いた。
この時は5.150.000円で販売され、
程なく完売した。
今回のS207は限界利益を高めるために、
5.550.000円の価格が付いた。
まだ完全に償却が終わっていない新型のボディで、
エンジン出力を向上させ、
タイヤサイズもアップさせた。
タイヤを大きくする開発にはお金が掛かる。
そこに妥協を許さない姿勢は、
平川社長ならではのリーダーシップの賜だ。
だからS207が206より、
僅か40万円の価格上昇に抑えられたことは、
とてもお値打ちだと言える。
総合性能は価格以上に高まった。
S207
【型式】
CBA-VAB
【主要諸元】
全長×全幅×全高(mm):4635×1795×1470
ホイールベース(mm):2650
トレッド前/後(mm):1535/1550
最低地上高(㎜):135
車両重量(kg):1510
最小回転半径(m):5.6
【エンジン】
EJ20型水平対向4気筒DOHC 16バルブ デュアルAVCS ツインスクロールターボ
内径×行程(mm):92.0×75.0
圧縮比:8.0
最高出力:241kw(328ps)/7200rpm
最大トルク:431N・m(44.0kgf・m)/3200~4800rpm
【燃料供給装置】
EGI
【変速機】
6速マニュアル
【サスペンション・ステアリング】
前/ストラット式 後/ダブルウイッシュボーン
ステアリングギヤ比 11:1
【税抜き車両本体価格】
ベース価格5.550.000円
チャレンジパッケージは5.850.000円
上のクルマはアドバンスドセイフティパッケージが付くので、
5.920.000円となる。
S207に乗ると、
インプレッサとWRXがそれぞれ別の道を歩む事が良く分かる。
さてS207は昨年のクルマ、
即ちアプライドモデル「B」がベースだ。
それに様々なシャシーパーツを満載し、
凄く気持ちよく曲がるクルマに仕立て上げられた。
それに対して、
最新のS4はどうなのか。
スバル WRX S4 2.0GT-S Eyesight アドバンスドセイフティパッケージ
【型式】
VAGC4S8 DJC
【主要諸元】
全長×全幅×全高(mm):4595×1795×1475
ホイールベース(mm):2650
トレッド前/後(mm):1530/1540
最低地上高(㎜):135
車両重量(kg):1540
最小回転半径(m):5.5
乗車定員 5名
【エンジン】
FA20/水平対向4気筒2.0L DOHC16バルブデュアルAVCS DIT
内径×行程(mm):86.0×86.0
圧縮比:10.6
最高出力:221kw(300ps)/5600rpm
最大トルク:400N・m(40.8kg・m)/2000-4800rpm
【燃料供給装置】
筒内直接燃料噴射装置
【変速機】
スポーツリニアトロニック(マニュアルモード付)
【燃費】
13.2km/l (JC08モード)
【標準装備】
マルチインフォメーションディスプレイ付レッドルミネセントメーター
キーレスアクセス&プッシュスタート
アルカンターラ/本革(レッドステッチ)シート表皮
電動パーキングブレーキ
225/45R18タイヤ&アルミホイール
運転席&助手席8Wayパワーシート
オールウエザーパック
ウエルカムライティング&サテンメッキドアミラー
【税抜き車両本体価格】
3.370.000円 外装色クリスタルホワイト・パールは3万円高
意外なことにS207から乗り換えても、
予想していたほどの差を感じない。
「それなら同じか」と問われると、
そうでも無いんだ。
そのニュアンスを説明するのが実に難しい。
セミアニリンレザーを使ったレカロシートは凄いけど、
このシートも決して悪くない。
SUBARUを見慣れていると、
かえってこのシートの形状から深い安心感を得ることができる。
表皮の材質にアルカンターラと本革が使われている。
SUBARUらしい性能を重視したシートで、
滑らず長時間座っても汗で蒸れない。
リヤシートの広さも5人で乗るのに十分だ。
カップホルダー付のセンターアームレストを出して、
4人ゆったり座るのも悪くない。
シートのバックレストを倒せるので、
トランクを拡張できる便利な設計だ。
コックピットに収まり、
インストルメントパネルを見ても、
どちらもそれほど特別感は無い。
だが使い込むほどに味が出るだろう。
WRXはある意味使い倒すクルマだ。
ちょっとやそっと痛めつけられても、
びくともしないような雰囲気が良いのだ。
欧州車の最高レベルと渡り合える実力を感じる。
日本車にも内装で胸を張れるクルマが次々と出てきている。
SUBARUも次のインプレッサからその扉を開けるようだ。
でもWRXのオーナーは、
あれやこれやとカスタマイズするのが好きなので、
ロバスト性を意識したインパネがふさわしい。
レッドルミネセントメーターが標準装備だ。
細部までクオリティが高められ、
マルチインフォメーションディスプレイでアイサイトの作動状況も把握できる。
ウエルカム演出も見事で、
WRXのアイコンが流れるように映し出され、
次に指針がスイープを始める。
上質な排気音を奏でる。
これが昇華したボクサーサウンドだ。
ステンレスフィニッシャーをオプション装着しドレスアップした。
リアフォグランプを備えたバンパーの下部には、
空力特性を高めるためにディフューザーが備わる。
A型とC型の走りを比較するために、
黒いSTIを走らせた。
タイヤをコンチネンタル製に換装したので、
乗り味が更に良くなっていた。
カヤバ製のダンパーとも相性が良い。
S4はまだカチカチの新車だから、
どう違うのか比較した。
いつも試す道路の段差で、
まず新型S4の走りを確認した。
ギャップを時速60キロで通過すると、
軽くいなすように通過出来た。
ビルシュタインダンパーは、
ある一定の段差でボディに強い衝撃を与えてしまう。
その理由は、
ボディに伝わる力の影響で、
取り付け部分が変形し、
ダンパーがスムーズにストロークしないためだ。
VABのボディは剛性が大幅に高まり、
安全性と動力性能に対する許容量を格段に引き上げた。
その引き替えとして、
全体的にボディから伝わる印象が硬く、
締結力の強い印象を感じてしまう。
だから大きな力がサスペンションに掛かった時、
取り付け部周辺がしなると、
ダンパーの動きに抵抗が生じる。
それが少し硬くてギクシャクした印象に変わる。
今回のマイナーチェンジで、
確実にボディワークまで手が入った。
BRZのように大がかりな変更では無いが、
サスペンションのバネレートを変えたり、
ダンパーのロッドガイドやオイルをファインチューニングした。
そのために、
フロントのクロスメンバーの剛性を高め、
リヤのトレーリングリンクにも手を入れたはずだ。
昨年秋に大きく変わった乗り味に驚いた、
フォレスターやXVと同じ改善が伺われる。
「たかがダンパーとばねじゃないか」と侮ってはならない。
SUBARUは試験装置まで自主開発するから、
他社には手の届かない改善が可能だ。
サスペンションの応答性を光学的に解析する装置を作り上げた。
それは、
スチールベルトを用いた2輪の台上試験器に、
左右の車輪をサスペンションごと装着し、
変位をステレオカメラを用いて三次元測定するのだ。
SUBARUはステレオカメラの基礎技術を、
これまでも多彩に応用してきた。
アイサイトだけに拘っているわけでは無い。
適切にボディへ路面からの力が伝わり、
取り付け部の変形を抑えたので、
クルマの動きに旨味とコクが出た。
225/45R18のタイヤを装備し、
ハイラスター塗装された7.5Jのホイールを採用。
この他にメーカーオプションで245/40R18のハイパフォーマンスタイヤと、
ハイラスター塗装された8.5Jのホイールを選ぶことも出来る。
そちらはSTIにより近い味付けにされている。
同じ場所で少しずつ速度を上げて、
ボディへの衝撃の増加を調べると、
かなり速度が高くても感じなくなっていた。
次にSTIで同じ様に走った。
コンチネンタルCSC5を履き、
1万キロ走って硬さの取れたカヤバ仕様のSTIと、
真っ新の新車で、
まだカチカチのS4 2.0GTーSは、
ほぼ互角の走り味だ。
と言うことは、
このS4はまだまだこれから良くなって、
これまでのハイパフォーマンス仕様の「動的質感」を、
上回る可能性を持つ。
丸目から涙目に変わった時も同じような印象を持った。
ぎくしゃく感が減ると同時に、
エンジンがパワーアップしたので、
旨味とコクが増したのだ。
そういうことを振り返りたくて、
面白いクルマを連れ帰った。
室内にくたびれた様子が全く無い。
徹底的に細部まで分解し、
状態を確認した上で適切な整備を施す。
最近の道路環境を鑑みると、
錆が出るのは仕方が無い。
防錆処理で済むならそのまま。
駄目ならアッセンブリーで交換だ。
この錆びた鉄のフレームが、
ハイドロフォーミングで作られたサブフレームだ。
衝突安全性に欠かせない部品だ。
強度と剛性は根本から異なる。
クラッシュした時の衝撃を、
壊れながら吸収させる部分には柔らかい鉄を使い、
形状をしっかり残す部分に固い鉄を使う。
さらに様々な工夫を凝らし、
SUBARUは遂に世界最高の安全性能を実現した。
クルマは締結感を高め、
だんだん装甲車のようになっていく。
するとサスペンションは落ち着きを失い、
ダンパーが正確に機能せず、
速度を上げるとピョンピョン落ち着かない。
すると動的質感は下がる。
丸目のGDAが4ヶ月以上掛けて熟成させた。
グラスコートの準備が整い、
ぴかぴかに輝いていた。
このクルマは5速の250馬力仕様の方が面白い。
面白い理由だろう。
このクルマから涙目に変化して、
様々な部分が大幅に進歩を遂げた。
そういう変化を振り返ると、
最新のWRXもどう変化したのか良く分かる。
冒頭のヘッドライトをもう一度見て欲しい。
あれはSVXのヘッドライトだ。
このクルマの1年後に発表された。
このSVXは凄い距離を走っていた。
そのために80kmほど走らせた。
時速100kmでどこまでも走って行けそうだ。
500マイル走るために作られているから、
その10分の1など屁でも無い。
このクルマに乗ると、
SUBARUがこんな素晴らしいクルマを作れることに、
昔から畏敬の念を抱いていた。
それが「SUBARUなら」という期待に繫がる。
もしかしたらSUBARUの技術者は、
動的質感のベンチマークに、
SVXも置いたかもしれない。
だから楽しみなんだ。
現在最強のボディを持つ、
S207の走行距離が1万キロを超える事が。
その時に、
どんな素顔を見せるのか、
それが思うとワクワクする。
その時のためにNBRでレクチャーを受ける。
正しい乗り方を知らないと、
WRXの本当の面白さを引き出すことが出来ない。
日本の道路やサーキットで、その練習は不可能だ。
新しい知識をたっぷり吸収してくる。
Bプラン特別コースの開幕を楽しみに待って欲しい。
終わり