枯れてしまった柊を処分した場所に、奇麗な苔が生えそろった。
あの日以来、
SVXの魅力アップも続いている。 性能アップもさることながら、大事なことを忘れていた。もっと外装に手を掛けて品質を高める必要がある。
それに気がついた理由は、大切に保管しているR1の存在だ。 新車も含め、
最終型のR1「プレミアム ブラック リミテッド」を沢山持っていたが、
いよいよこの中古車1台だけになった。
軽自動車の製造撤退を決めたスバルが、
最後にはなった拘りの作だ。
3色ある中で、
特に黒いボディはデリケートだ。
磨けば輝くが、
管理に手を抜くと惚ける。
だから細部まで良く磨くことが肝心だ。
徹底的に磨くと鏡のようになる。
当社ではそれを「車体鏡面仕上げ」と呼び、
定期的に在庫車を磨く。
R1にはガラスコートも掛けたので、
場内ギャラリーで熟成させることにした。
そして次の鏡面仕上げに取り組む。
黒いOBKの3.0Rも、間もなくピカピカになるはずだ。
R1を場内に置き熟成させるのは、
表面の樹脂をゆっくりと加水分解させ、
強度の高い皮膜を作るためだ。
半地下状態のギャラリーは、
直射日光も当たらないし、
湿度も適度にあって、
コーティング後の熟成に極めて都合が良い。
R1を寝かせたのは東京出張の前日だった。
その日、神奈川から加藤さん御一家が来店された。 美味しいお土産をありがとうございました。 奥様の愛機はR1だ。R2を買ったけど、どうしても欲しくて乗り換えたと仰った。R1に掛ける執念が、愛好者を呼び寄せたのかもしれない。
今度の出張の目的は、 R1の4WDを入手するためだった。このデザインは、アンドレアス ザパティナスが残した、大いなる逸品だ。
もう一台のクルマも、彼の影響が色濃い。
それを更に個性的にしたパートナーが居た。 「社長は絶対買ってくると思った」
と大宮が笑った。届いたらすぐにスタッフが分解を始めた。 仕入れたビームスはとても良いクルマだった。久しぶりにオレンジ色のシートが入手できて、とても嬉しい。 ビームスとの共同事業は短命に終わったが、かなりのシナジー効果は生まれた。
ビームスが商品企画に関わったことで、革の質も良く色使いも大胆でステキだ。
後年になってXVにタンジェリンオレンジがラインナップされたのは、ビームスとのシナジー効果だろう。
その出張先に、見慣れたクルマが並んでいた。雨上がりで蒸し返るような炎天下に、仏像を連想する黄金色の車体を横たえていた。
最新スペックのMだった。
カーボンルーフのクオリティが凄い。
今年もまたグリーンヘルでこのクルマを乗り回し、
ドライブスキルを高めるつもりだ。
BMWのM社が、
ニュルブルクリンクで繰り広げるトレーニングで、
何種類かの教習車が準備される。
それはM6だったりミニクーパーだったりするが、
やはり一番の主力車種はM4だ。
一昨年までM3を使ったが、
昨年からこのM4にバトンタッチした。
このクルマにはフロントに修復歴がある。
中古車なので、
安ければ練習用に買うのも良い。
だが売り手の希望は750万円以上だったようで、
誰も買う物は居なかった。
700万円という金額を一つの壁とすると、
先日レースに出たTOYOTAミライは、
その壁を下回っている。
なるほど、
これが670万円なら、
確かにサービス価格と言うだけのことはある。
ただし、
実験室レベルの使用環境を見た時、
ごく一般の人々がミライをプリウスのように使う日はまだ当分来ない。
スバルでは恐らく実現しないだろう。
ミライの税込み価格に軽自動車の中古車を一台加えれば、
M4を中古車で買う事も出来る。
ヒトそれぞれに色々な価値を見出せば良い。
BMWが大好きなヒトは、
今最もスポーティーなM4を選ぶだろう。
けれどもM3をグリーンヘルで3度使った感想を言うと、
V8を搭載した大排気量のM3はとてもステキなクルマだった。
結局時流に逆らえず、
ダウンサイジングコンセプトのM4が誕生した。
盛んに熟成が進んでいるだろう。
4年前を振り返る。
初めてM3にノルドシェライフェで乗った時、
思わずこのクルマを思い出した。
SVXとM3に共通する事は、
車体が重すぎることだろう。
だから軽くすればするほど、
クルマの魅力は高くなる。
BMWは他にもスポーティカーをいくつも持つ。
スバルもいくつかのスポーティカーを持つ。
M3からM4に生まれ変わり、
そこで極めた軽量化の内容は、
喉から手が出るほど羨ましかった。
SVXを90kg軽量化した時、
開発に関わった伊賀さんは、
モデルチェンジでこんなクルマを作りたかったと仰った。
オレンジのSVXも大切にしているが、
最も活躍するのは、
黒鯨だ。
北原課長には、
このクルマを、
「リフレッシュメンテナンスのショーケースだと思うように」と伝えている。
黒鯨がここに来たのは平成13年12月25日の事だった。
それ以来、
B&Bサスペンションの開発に使い、
オリジナルスポーツマフラーの開発にも使った。
各部を徹底的にメンテナンスして、
壊れた場所があればすぐ直した。
ステラの内示会で富士重工の群馬製作所にも乗っていった。
平成18年のことだ。
それ以降の整備記録が残っている。
18.5.2 タイミングベルト
ロッカーカバーガスケット等交換
18.6.4 エアコンメンテナンス
エアコンガス配管ホース交換
21.6.4 スパークプラグ
フューエルストレーナー交換
走行距離165.010km
21.10.19 トランスミッションオーバーホール
ステアリングギヤボックスオーバーホール
プロペラシャフトベアリング交換
走行距離165.361km
22.1.5 パワーステアリングポンプオーバーホール 走行距離165.430km24.5.26 エアコンメンテナンス エキスパンションバルブ エバポレーター交換 走行距離165.503km24.6.21 リヤハブベアリング交換 走行距離165.691km27.6.30 長い距離を移動し各部清掃点検 走行距離166.451km東京出張からもどって、
黒鯨を見ると、アチコチの様子が変わっていた。
ミラーが取り外され、
ドアハンドルの姿も無い。
北原課長がクルマの影で熱心に何かを磨いていた。
なんとドアハンドルはアルミの鋳物だという。
それを強烈に磨いて既に右側がクルマに取り付けられていた。
「燻し銀の輝きを出せ」
それは常々彼等に、
工具を管理する上で厳しく言う言葉だ。
それをSVXの作り込みで具現化するとは恐れ入った。
手の中を見せてもらうと、
左側のドアハンドルが嬉しそうに笑っていた。
スバルはこの様に隠れた所に良い部品を使う。
それが多くのファンを産んできた。
スバリストと呼ばれる、
スバルに限りない愛情を持つヒトは、
ホンモノが好きだ。
これを見れば解るように、
SVXからスバル360など、
軽量化を極めた当時の深い拘りを感じる。
だからこそSVXを所有する上で、
常に最優先して考えるべき事は重量管理だ。
他車から流用する時は、
オリジナルパーツに比べ、
常に重量を意識し軽い物を選ぶと良い。
ノーマルでクルマの良さを充分引き出せる。
部品や装備を、
とにかく軽くなる方向へ向けると良いクルマになるだろう。
時々やらなくても良いことをしたクルマを見るが、
迷ったら原点回帰だ。
それは軽量化だ。
スバルは古来から軽量化を極め続けてきた。
黒い個体の残存数はかなり少ない。
他の色に比べ「べったり」した感じで、
重厚感はあるがエレガントとは言い難い。
それが残存数の少ない理由かもしれない。
アルミのドアハンドルに痺れた北原課長は、
冴えたコーディネートを発案した。
彼自身の手でドアミラーをシルバーに塗り替えた。
タイヤサイズを大きくしたので、
ホイールにSTIを選んだ。
この鍛造アルミホイールも渋いシルバーなので、
黒とシルバーの色合いが良い。
黒鯨はますます国籍不明車として凄味を増していく。
決して新しい塗膜では無いので、粗さも目立つが鏡面研磨の努力は実った。
黒だからこそ磨き甲斐がある。車体側面に写るご先祖様の笑顔がそれを物語る。
スバルは良いレガシー(大いなる伝承物)を残してくれた。このクルマの存在は、スバルもプレミアムカーを本気になれば作れることを実証した。
但しブランドが弱かった。人気が出て売れる様になったが、今でも国内では300万円が一つの壁で、400万円を超えるクルマはほとんど売れない。
スバルは昔「400万円を切るSVXなど舐められる」と言ってのけた。
「その通りだ!」と思った。しかしマジョリティは違った。そう言う者は僅かで、ほとんどのヒトは、「売れるわけが無い」と思った。
スバルは昔「ホンモノの軽こそ操縦安定性に優れ安全でスタイル優先であるべきだ」と言ってのけた。
「その通りだ!」と思った。しかしマジョリティは違った。そう言う者は僅かで、ほとんどのヒトは、「売れるわけが無い」と思った。
イタリアンテイストのチンクチェントと、スバルの軽の歴史を重ねると、ブランド力の優劣が炙り出される。
SVXは400万円の壁を乗り越えられなかったが、これからのスポーツカーで、その壁を乗り超える必要がある。
なぜか。そうじゃ無いと、スバルは全く面白くない。
こういうクルマをスバルに作って欲しいだけだ。「こういうクルマ」という定義は、「そっくりであれば良い」ではない。
型破りな発想で、卓越した性能を誇るクルマを言う。
S660を小馬鹿にして申し訳なかったが、軽自動車の世界で卓越したモノを創っても、そんなモノは狭い世界の自己満足でしか無い。
それと比較すると、コイツの立ち姿に目を疑った。
初めはオモチャかと思ったが、アルファロメオのエンブレムが光っている。 ちょっと見た目にはロータスを思い出すが、全く知らないクルマだった。勉強不足だった。初めて見るクルマに興奮した。アルファロメオ4Cは、イタリアの自動車メーカーが作った、ミッドシップの2シータ-スポーツカーだ。 4気筒エンジンを搭載しているので、「4シリンダー」から引用した単純な名前だ。車両重量は1100kgしか無く、
4mを切る長さで幅が187センチある。 と言う事は、BRZより25センチ短く、 10センチ幅広で、 ボディとツライチの黒い樹脂で出来たバイLEDヘッドライト。
昔プロドライブが作った、
2代目インプレッサWRカーを彷彿させるヘッドライト周りは、 まるで蝉のような昆虫的な目力を放っている。
ブレンボキャリパーもアルファらしく塗られ、彼等が調律したことを示すかのように、「アルファロメオ」の文字が刻まれている。前後の重量配分が40:60と非常に良く、相乗効果で強烈なストッピングパワーを発揮する。
カーボンコンポジットのシャシーフレームを持ち、
レーシングカーさながらのペダルシステムになっている。床から生えたペダルも良いが、それ以上に材質とメカを見せる演出が素晴らしい。
マニュアルエアコンだし、オーディオも質素だが、 そんな事は二の次で良い。見るからにそれを誇張する姿に、ハートが「ぐさり」と刺された音を漏らした。
スイッチにも質素だがクオリティ溢れる演出が見えた。ボタン式のギヤセレクタは見栄え重視としか言えないが、伊達男の意地を窺わせる。ラテン系の男が好む演出なのかもしれない。
このクルマにもSI-DRIVEが装着されていた。スバルがスタンダード化して早9年が過ぎ、どこのメーカーもこうしたギミックを付けるようになった。DNAシステムと名付けられ、上から順に、D:ダイナミックN:ナチュラルA:オールウエザーと表示が並んでいる。 スバルとアルファの考え方はほぼ同じだが、アルファ4Cには第4のシステムが隠されている。それが「アルファレース」だ。
スポーツカーらしく低い位置にシートが付き、ドライカーボンと革の対比が美しい。このシートの出来映えが素晴らしく、同じモノをBRZに付けたくなった。ギンギンなミッドシップスポーツカーを、GTのように扱えるのはこのシートのおかげだろう。 ステッチもお洒落だ。このバルクヘッドの後ろに4気筒エンジンが横置きされ、後輪を駆動する。
ガラス越しに見えるエンジンが良い。1750ccの直噴ターボエンジンは、ダウンサイジングコンセプトに基づき、低回転からトルクを最大値まで発揮する。
高回転型のオーバースクエアエンジンだが、何と350N・mの最大トルクを、2100から4000回転まで台形に持続する。
だから一番美味しい所で、よりドライバーを気持ち良くさせるはずだ。
ターボラグをほとんど感じさせず、最高出力240馬力を6000回転で絞り出す。
BRZのエンジンも気持ち良いが、
時流に乗ったダウンサイジングターボも、
全くターボラグを感じさせないなら悪くない。
NAらしさを出すために、
エンジンにはいくつかの新たな試みがなされた。
スカベンジングテクノロジーと呼ばれる、
ユニークな掃気システムだ。
吸排気側のそれぞれに備わる連続可変バルブタイミング機構を、
エンジンコントロールユニットが緻密に制御する。
その結果、
バルブオーバーラップでインテークマニフォールドから、
エキゾーストマニフォールドへ直接流れ込む気流を発生させる。
それにより、
燃焼室の掃気効率を良くして、
ターボチャージャーの回転数を高めるので、
ターボラグの発生を抑制できる。
どこのメーカーのターボを使ったのかは解らないが、
ウエストゲートの開く音を除けば、
音も加速感もまるで大排気量のNAだった。
最近のターボチャージャーは、
ひと昔前の物とは違うらしい。
スバルのターボサプライヤーも、
IHIから米国のハネウエルに替わった。
メーカーから求められる性能が、
より厳しいのだろう。
スポーツレザーステアリングと呼ばれる、
アルカンターラ素材を差し込んだハンドルは、
素晴らしい素材と巧みなステッチで作られ、単なるDシェイプとは格式が異なる。アルファTCTと呼ばれるツインクラッチ6速オートマチックは、ローンチコントロール機能まで持つ。2ペダルのクルマはスタンディングスタートがつまらない。それを補うシステムだ。
DNAシステムをアルファレースに設定し、
ブレーキペダルを踏み込みながら、アクセルを全開まで踏み込む。 エンジンには回転抑制機能があるため、
エンジンは吹き上がらず一定回転で回り続ける。その状態で、ステアリングの左側にあるパドルスイッチを手前に引くと、
ローンチシステムがオンになる。
あとはブレーキを離しさえすれば、最速のスタンディングスタートが可能になる。
ボタンでシフトセレクトするのは、慣れないとやりずらい。最近のクルマでは珍しく、パワーステアリングを装備していない。
スポーツカーで後輪荷重が大きいから、必要無いと言えばそれまでだ。
割り切ることも大事だろう。ガラスが組み込まれたエンジンフードを空けると、僅かなトランクスペースがある。 無いよりましだが、
ちょっと身の回りの物を詰め込むともう余裕は無い。
従ってスーツケースは助手席の足許に置き、
助手席も鞄で埋め尽くされる。
少なくとも二人で宿泊しながらドライブできるクルマでは無い。
ところが和田アキ子のような魅力が溢れている。
豪快で親分肌の女性だけど、
動物に弱いような女らしさも持つ。
年齢性別に関係ない魅力かな。
アルファが好きな人なら、
たとえロータスに似ていようが、
少々乗りづらかろうが、
そのエッセンシャルに惚れ惚れして買ってしまうだろう。
STIのリリースする「S」の様なモノで、
そのブランドの信頼性と、
期待を裏切らない商品力に魅力がある。
中津スバルでSVXを持ち続ける執念も、
そんなスバルブランドに対する信頼と、
期待を裏切らなかった商品力から産まれるのだろう。
前を走るC4のサウンドを聴きながら、
BRZを操った。
強烈なパワーも、
飛び抜けたギミックも無い。
ところがこちらにはMTがある。
だからローンチスタートなんて小細工は必要無い。
カーボンで軽量化した2シータ-スポーツに比べ、
120kgの重さがあるが、
SVXに比べたら驚異的な軽さに仕上がった。
トヨタとの商品企画は十分なトランクスペースの確保や、
素晴らしいデザインとして実を結んだ。
なにしろ一番の魅力は、
水平対向エンジンによる並外れたバランスの良さだ。
SVXで懲りたスバルは、
二度とこの手の車に足を踏み入れようとしなかったが、
時代の節目でBRZという立派なクルマを作った。
旋回性能、
操る気持ちの良さ、
コストフォーバリュー、
その全ての面でSVXの後継車として十分な存在感を持つ。
だからこそ、
次は700万円の壁をどう越えるかに、
スバルの今後の面白さの行方が掛かっている。
スポーツカーで高いお金を戴くためには、
動力性能で卓越した何かを持たねばならない。
その事を考察するのに相応しい経験だった。
並んで走ると良く解る。
スバル好きにとって、
確かに4Cは素晴らしいクルマだが、
少しも欲しいとは思わなかった。
それくらいBRZに惚れてしまった。
ある意味、
実に困った事でもある。
それはBRZが200万円台で買えるからこそ言えることだ。
300万円以上の金額を出せるクルマでも無い。
その理由は次のブログをお楽しみに。
あの日以来、
SVXの魅力アップも続いている。
それに気がついた理由は、大切に保管しているR1の存在だ。
最終型のR1「プレミアム ブラック リミテッド」を沢山持っていたが、
いよいよこの中古車1台だけになった。
軽自動車の製造撤退を決めたスバルが、
最後にはなった拘りの作だ。
3色ある中で、
特に黒いボディはデリケートだ。
磨けば輝くが、
管理に手を抜くと惚ける。
だから細部まで良く磨くことが肝心だ。
徹底的に磨くと鏡のようになる。
当社ではそれを「車体鏡面仕上げ」と呼び、
定期的に在庫車を磨く。
R1にはガラスコートも掛けたので、
場内ギャラリーで熟成させることにした。
そして次の鏡面仕上げに取り組む。
R1を場内に置き熟成させるのは、
表面の樹脂をゆっくりと加水分解させ、
強度の高い皮膜を作るためだ。
半地下状態のギャラリーは、
直射日光も当たらないし、
湿度も適度にあって、
コーティング後の熟成に極めて都合が良い。
R1を寝かせたのは東京出張の前日だった。
その日、神奈川から加藤さん御一家が来店された。
今度の出張の目的は、
もう一台のクルマも、彼の影響が色濃い。
それを更に個性的にしたパートナーが居た。
と大宮が笑った。届いたらすぐにスタッフが分解を始めた。
ビームスが商品企画に関わったことで、革の質も良く色使いも大胆でステキだ。
後年になってXVにタンジェリンオレンジがラインナップされたのは、ビームスとのシナジー効果だろう。
その出張先に、見慣れたクルマが並んでいた。雨上がりで蒸し返るような炎天下に、仏像を連想する黄金色の車体を横たえていた。
カーボンルーフのクオリティが凄い。
今年もまたグリーンヘルでこのクルマを乗り回し、
ドライブスキルを高めるつもりだ。
BMWのM社が、
ニュルブルクリンクで繰り広げるトレーニングで、
何種類かの教習車が準備される。
それはM6だったりミニクーパーだったりするが、
やはり一番の主力車種はM4だ。
一昨年までM3を使ったが、
昨年からこのM4にバトンタッチした。
このクルマにはフロントに修復歴がある。
中古車なので、
安ければ練習用に買うのも良い。
だが売り手の希望は750万円以上だったようで、
誰も買う物は居なかった。
700万円という金額を一つの壁とすると、
先日レースに出たTOYOTAミライは、
その壁を下回っている。
なるほど、
これが670万円なら、
確かにサービス価格と言うだけのことはある。
ただし、
実験室レベルの使用環境を見た時、
ごく一般の人々がミライをプリウスのように使う日はまだ当分来ない。
スバルでは恐らく実現しないだろう。
ミライの税込み価格に軽自動車の中古車を一台加えれば、
M4を中古車で買う事も出来る。
ヒトそれぞれに色々な価値を見出せば良い。
BMWが大好きなヒトは、
今最もスポーティーなM4を選ぶだろう。
けれどもM3をグリーンヘルで3度使った感想を言うと、
V8を搭載した大排気量のM3はとてもステキなクルマだった。
結局時流に逆らえず、
ダウンサイジングコンセプトのM4が誕生した。
盛んに熟成が進んでいるだろう。
4年前を振り返る。
初めてM3にノルドシェライフェで乗った時、
思わずこのクルマを思い出した。
SVXとM3に共通する事は、
車体が重すぎることだろう。
だから軽くすればするほど、
クルマの魅力は高くなる。
BMWは他にもスポーティカーをいくつも持つ。
スバルもいくつかのスポーティカーを持つ。
M3からM4に生まれ変わり、
そこで極めた軽量化の内容は、
喉から手が出るほど羨ましかった。
SVXを90kg軽量化した時、
開発に関わった伊賀さんは、
モデルチェンジでこんなクルマを作りたかったと仰った。
オレンジのSVXも大切にしているが、
最も活躍するのは、
黒鯨だ。
北原課長には、
このクルマを、
「リフレッシュメンテナンスのショーケースだと思うように」と伝えている。
黒鯨がここに来たのは平成13年12月25日の事だった。
それ以来、
B&Bサスペンションの開発に使い、
オリジナルスポーツマフラーの開発にも使った。
各部を徹底的にメンテナンスして、
壊れた場所があればすぐ直した。
ステラの内示会で富士重工の群馬製作所にも乗っていった。
平成18年のことだ。
それ以降の整備記録が残っている。
18.5.2 タイミングベルト
ロッカーカバーガスケット等交換
18.6.4 エアコンメンテナンス
エアコンガス配管ホース交換
21.6.4 スパークプラグ
フューエルストレーナー交換
走行距離165.010km
21.10.19 トランスミッションオーバーホール
ステアリングギヤボックスオーバーホール
プロペラシャフトベアリング交換
走行距離165.361km
22.1.5 パワーステアリングポンプオーバーホール 走行距離165.430km24.5.26 エアコンメンテナンス エキスパンションバルブ エバポレーター交換 走行距離165.503km24.6.21 リヤハブベアリング交換 走行距離165.691km27.6.30 長い距離を移動し各部清掃点検 走行距離166.451km東京出張からもどって、
黒鯨を見ると、アチコチの様子が変わっていた。
ドアハンドルの姿も無い。
北原課長がクルマの影で熱心に何かを磨いていた。
それを強烈に磨いて既に右側がクルマに取り付けられていた。
それは常々彼等に、
工具を管理する上で厳しく言う言葉だ。
それをSVXの作り込みで具現化するとは恐れ入った。
左側のドアハンドルが嬉しそうに笑っていた。
それが多くのファンを産んできた。
スバリストと呼ばれる、
スバルに限りない愛情を持つヒトは、
ホンモノが好きだ。
これを見れば解るように、
SVXからスバル360など、
軽量化を極めた当時の深い拘りを感じる。
だからこそSVXを所有する上で、
常に最優先して考えるべき事は重量管理だ。
他車から流用する時は、
オリジナルパーツに比べ、
常に重量を意識し軽い物を選ぶと良い。
ノーマルでクルマの良さを充分引き出せる。
部品や装備を、
とにかく軽くなる方向へ向けると良いクルマになるだろう。
時々やらなくても良いことをしたクルマを見るが、
迷ったら原点回帰だ。
それは軽量化だ。
スバルは古来から軽量化を極め続けてきた。
他の色に比べ「べったり」した感じで、
重厚感はあるがエレガントとは言い難い。
それが残存数の少ない理由かもしれない。
アルミのドアハンドルに痺れた北原課長は、
冴えたコーディネートを発案した。
彼自身の手でドアミラーをシルバーに塗り替えた。
ホイールにSTIを選んだ。
この鍛造アルミホイールも渋いシルバーなので、
黒とシルバーの色合いが良い。
黒鯨はますます国籍不明車として凄味を増していく。
決して新しい塗膜では無いので、粗さも目立つが鏡面研磨の努力は実った。
黒だからこそ磨き甲斐がある。車体側面に写るご先祖様の笑顔がそれを物語る。
スバルは良いレガシー(大いなる伝承物)を残してくれた。このクルマの存在は、スバルもプレミアムカーを本気になれば作れることを実証した。
但しブランドが弱かった。人気が出て売れる様になったが、今でも国内では300万円が一つの壁で、400万円を超えるクルマはほとんど売れない。
スバルは昔「400万円を切るSVXなど舐められる」と言ってのけた。
「その通りだ!」と思った。しかしマジョリティは違った。そう言う者は僅かで、ほとんどのヒトは、「売れるわけが無い」と思った。
スバルは昔「ホンモノの軽こそ操縦安定性に優れ安全でスタイル優先であるべきだ」と言ってのけた。
「その通りだ!」と思った。しかしマジョリティは違った。そう言う者は僅かで、ほとんどのヒトは、「売れるわけが無い」と思った。
イタリアンテイストのチンクチェントと、スバルの軽の歴史を重ねると、ブランド力の優劣が炙り出される。
SVXは400万円の壁を乗り越えられなかったが、これからのスポーツカーで、その壁を乗り超える必要がある。
なぜか。そうじゃ無いと、スバルは全く面白くない。
こういうクルマをスバルに作って欲しいだけだ。「こういうクルマ」という定義は、「そっくりであれば良い」ではない。
型破りな発想で、卓越した性能を誇るクルマを言う。
S660を小馬鹿にして申し訳なかったが、軽自動車の世界で卓越したモノを創っても、そんなモノは狭い世界の自己満足でしか無い。
それと比較すると、コイツの立ち姿に目を疑った。
初めはオモチャかと思ったが、アルファロメオのエンブレムが光っている。
4mを切る長さで幅が187センチある。
2代目インプレッサWRカーを彷彿させるヘッドライト周りは、
だから一番美味しい所で、よりドライバーを気持ち良くさせるはずだ。
ターボラグをほとんど感じさせず、最高出力240馬力を6000回転で絞り出す。
時流に乗ったダウンサイジングターボも、
全くターボラグを感じさせないなら悪くない。
NAらしさを出すために、
エンジンにはいくつかの新たな試みがなされた。
スカベンジングテクノロジーと呼ばれる、
ユニークな掃気システムだ。
吸排気側のそれぞれに備わる連続可変バルブタイミング機構を、
エンジンコントロールユニットが緻密に制御する。
その結果、
バルブオーバーラップでインテークマニフォールドから、
エキゾーストマニフォールドへ直接流れ込む気流を発生させる。
それにより、
燃焼室の掃気効率を良くして、
ターボチャージャーの回転数を高めるので、
ターボラグの発生を抑制できる。
どこのメーカーのターボを使ったのかは解らないが、
ウエストゲートの開く音を除けば、
音も加速感もまるで大排気量のNAだった。
最近のターボチャージャーは、
ひと昔前の物とは違うらしい。
スバルのターボサプライヤーも、
IHIから米国のハネウエルに替わった。
メーカーから求められる性能が、
より厳しいのだろう。
スポーツレザーステアリングと呼ばれる、
アルカンターラ素材を差し込んだハンドルは、
DNAシステムをアルファレースに設定し、
ブレーキペダルを踏み込みながら、アクセルを全開まで踏み込む。
エンジンは吹き上がらず一定回転で回り続ける。その状態で、ステアリングの左側にあるパドルスイッチを手前に引くと、
ローンチシステムがオンになる。
あとはブレーキを離しさえすれば、最速のスタンディングスタートが可能になる。
スポーツカーで後輪荷重が大きいから、必要無いと言えばそれまでだ。
割り切ることも大事だろう。ガラスが組み込まれたエンジンフードを空けると、僅かなトランクスペースがある。
ちょっと身の回りの物を詰め込むともう余裕は無い。
助手席も鞄で埋め尽くされる。
ところが和田アキ子のような魅力が溢れている。
豪快で親分肌の女性だけど、
動物に弱いような女らしさも持つ。
年齢性別に関係ない魅力かな。
アルファが好きな人なら、
たとえロータスに似ていようが、
少々乗りづらかろうが、
そのエッセンシャルに惚れ惚れして買ってしまうだろう。
STIのリリースする「S」の様なモノで、
そのブランドの信頼性と、
期待を裏切らない商品力に魅力がある。
中津スバルでSVXを持ち続ける執念も、
そんなスバルブランドに対する信頼と、
期待を裏切らなかった商品力から産まれるのだろう。
前を走るC4のサウンドを聴きながら、
BRZを操った。
強烈なパワーも、
飛び抜けたギミックも無い。
ところがこちらにはMTがある。
だからローンチスタートなんて小細工は必要無い。
カーボンで軽量化した2シータ-スポーツに比べ、
120kgの重さがあるが、
SVXに比べたら驚異的な軽さに仕上がった。
トヨタとの商品企画は十分なトランクスペースの確保や、
素晴らしいデザインとして実を結んだ。
なにしろ一番の魅力は、
水平対向エンジンによる並外れたバランスの良さだ。
SVXで懲りたスバルは、
二度とこの手の車に足を踏み入れようとしなかったが、
時代の節目でBRZという立派なクルマを作った。
旋回性能、
操る気持ちの良さ、
コストフォーバリュー、
その全ての面でSVXの後継車として十分な存在感を持つ。
だからこそ、
次は700万円の壁をどう越えるかに、
スバルの今後の面白さの行方が掛かっている。
スポーツカーで高いお金を戴くためには、
動力性能で卓越した何かを持たねばならない。
その事を考察するのに相応しい経験だった。
並んで走ると良く解る。
スバル好きにとって、
確かに4Cは素晴らしいクルマだが、
少しも欲しいとは思わなかった。
それくらいBRZに惚れてしまった。
ある意味、
実に困った事でもある。
それはBRZが200万円台で買えるからこそ言えることだ。
300万円以上の金額を出せるクルマでも無い。
その理由は次のブログをお楽しみに。