崖っぷちのインプレッサを覚えているだろうか。
あの時、
何を言いたかったのか明らかにしよう。
このクルマはボロボロだった。
エンジンを掛けると耳慣れない音がした。
特徴的な回転異音だ。
ボールベアリングを使ったターボの軸から、
もう消耗しきったと思われる異音が出ていた。
このクルマは丸目デビューに際し、
並行して開発されたいわく付きのクルマだ。
実はこの開発を「生ぬるい」とバッサリ切った男がいる。
それが現在STIの社長を務める平川さんだ。
平川さんに初めてお目に掛かった時のことだ。
最初は彼が誰なのか解らなかったが、
名刺を交換し「衝突安全の平川」、
またの名を「鬼の平川」であると知った。
たった一人で居酒屋に行き、
ゆっくり酒を飲みながら、どうするかよく考えた。
スペックCにいくらの価値を付けるか。 改めてその日を振り返ると、あまりにも役者が揃いすぎていた。
平川さんにお目に掛かったのも初めてだし、渋谷さんにも初めてお目に掛かった。
間に居るのは藤貫さんだ。スバルマガジンにSVXを寄贈した太っ腹な好人物だ。
時はBRZの開発が佳境に差し掛かっていた。
今思えば、当然スバルグローバルプラットフォームも、ほぼ基本が出来上がっていた頃だろう。
そうなると、納得がいく。
資料館にあったS202を指差し、
歴代のSUBARUでこれほどすごいクルマは無かった。
そう褒めた時だ。
平川さんは右手を上げ、
S202を指差しながら、
「こんなのはまだ全然努力が足りません」とばっさり切り捨てた。
彼の言う「こんなの」は、
当然「初のスペックC」に行き着く。
何故ならS202は今のSシリーズとは全く違うクルマだった。
Sシリーズと言うより、
RA-Rの元祖ともいえる。
クルマから安全性や快適性を削ぎ落した、
カミソリのようなクルマなのだ。
「衝突安全の平川」から見たら、そぎ落として軽量化したものを、根本的な軽量化と認めていなかったのだろう。
ここは全くの憶測で、本人にその真意を聞いていないが、当たらずしも遠からずだ。
Spec-Cの「C」はコンペティションを指す。
つまり以前からGC8にもあった「RA」を、更にストイックに練り上げて競技ベースとして完成させた。
既に二代目WRXに「STi type RA」が存在した。それに対して90kgの軽量化を果たしたのがSpec-Cだった。
ここが崖っぷちのインプレッサと名付けた理由だ。
Spec-Cを、その当時購入の対象にできなかった理由は、90kgを絞り出すためにありとあらゆるものを削り取ったからだ。
特にエアコンを後付けできない事が、致命的な問題だった。GTユースも考えねばならぬ。
軽トラックならまだしも、WRXでは全く購入の対象にならなかった。 S202はそれを克服して生まれた。
だが平川さんの眼には、スペCのコンプリートという点で、お眼鏡にかなわなかったのだろう。
Spec-Cの開発要点は、
1.車体の薄板化、部品の廃止2.バンパービーム等の構造簡略化3.燃料タンク、ウオッシャータンクの容量変更4.競技ベース車に割り切った仕様簡素化
の4点に集約される。
1についてはメーカーで本腰を入れただけあり、14品目の車体構成部品が板厚変更もしくは廃止された。
何とサブフレームまで廃止する徹底ぶりだった。
クルマの開発にかかわったPGMが旗を振らないと絶対にできない事だろう。
車体構成部品以外にも手が加えられ、軽量化バンパービームが開発された。それにより3kgの軽量化と、標準者と比較し1.2倍の剛性向上という結果を導いた。
内装品も徹底的に見直された。
まずステアリングビームを肉厚低減し、ブラケットの簡略化で軽量化した。
大胆にもエアバッグレスで実現している。
シートもサポートワイヤーを小型化したり、内部の徹底的に簡略化した。
シートベルトのリトラクタも変更して、調整パーツを取除き、メーターからレブカウンターや外気温系も取り除いて、徹底的に軽さを極めた。
シャシー関係は、デフマウントシステムの軽量化、ステアリングホイールとコラムの構成部品を削減して軽量化、軽量鍛造アルミホイールの開発、燃料タンクをモータースポーツ用に新規開発し、サブチャンバー付燃料ポンプを採用した。
エンジン性能の強化も忘れていない。
専用開発は3つの点に絞られた。
1.最大トルクを高める2.ふけあがりレスポンスを改善する3.高回転域を更に引き上げる
そのために、まずカムプロフィールを変更した。そしてバルブスプリングを吟味して選び、バラつきが出ないように組み付けた。
こうして8000回転まで回るエンジンが生まれたのだ。
ターボにも手を加え、以前から特別なクルマに採用している、IHI製のRHF5HB型ターボチャージャーに様々な工夫を凝らし、インペラーシャフトの回転フリクションを大幅に低減する事に成功した。
その結果過給レスポンスがターボ単体で10%も向上した。
但し管理が悪いと消耗も激しかった。
冒頭の個体は、完全に音を上げる寸前の痛々しいクルマだった。
インテークマニホールドも専用品になり、排気系もマフラー容量を上げ、競技車にふさわしい耐熱性の向上も達成した。
シャシーはアンチノーズダイブを強化し、フロントをハイキャスター化して、旋回性能も向上させた。
クロスメンバーも変更して、パフォーマンスロッドが与えられた。
当然取り付け部の剛性向上も図られ、サブフレーム廃止を補っている。
リヤサスはアンチスクオートを強化され、アンダーステアを減らしトラクション確保に寄与している。
リヤスタビリンクを樹氏から金属に変え、ロール剛性を高め、あの名タイヤ「RE070」の誕生につながった。この時も車体を10mm下げて低重心化を図っている。
トランスミッションオイルクーラーを装備し、インタークーラーウオーターㇲプレィをトランクに移設した。
プロペラシャフトにも手を加え、衝突安全性能を引き上げるためにコラプス構造を追加した。
あの時代ならではの開発だ。今ではベースに対するSpec-C並みの軽量化はできない。
Spec-CはGDBを開発する途中で、安全性を大幅に引き上げる必要性から車重が重くなった。
エンジンもその時に力量のある開発者が存在せず、そのまま使わざるを得なかった。
そのままだと競技に支障が出る恐れが生じて、急遽並行して開発が始まったのだ。
だからGDB発表の僅か一年後に出すことが出来た。
それを知っているからだろう。平川さんはバッサリと切った。
軽量化の主要アイテムはボディの軽量化で、それだけで20~30kgを減らした。
GDBはグローバル展開する戦略車で、しかも全世界で一位を獲る野望を持って生まれた。そうなると全世界の衝突規制も余裕をもってクリアしなければならない。
そのコンセプトで開発したボディを、あえて切り崩し軽量化したから、Spec-Cは国内専用ボディと割り切られている。
従ってボディワークまで簡略化され、軽量化を図られた結果、冒頭のクルマの様に5万km少しの走行距離で、標準ボディと比べ物にならないほどガタガタになってしまった。
ところが、ボディだけでは数十キロしか達成できず、内張やエアコンや、競技に必要無いものはすべて外し、何とか百kg弱の軽量化を達成した。
平川さんは、Spec-Cは基幹部分のレスが全てなので、
そこに触れずに軽量化しないと意味がないと言いたかっただろう。
しかし逆もまた真であろう。
Spec-Cの技術開発で得たモノは、
その後の量産のベース車にも対応できる。
涙目や鷹の眼に受け継がれた。
結局、丸目の開発者はSTIの企画部長となり、歴代で最高の性能を誇る「特別な」RA-Rを誕生させた。 名前が出自を物語る。
IMPREZA WRX STI TYPE RA-R
このクルマにはシリアルナンバーを与えなかったが、
僅か300台の限定であっという間に売り切れた。
新車価格は破格値の税別408万円だった。
昨今の自動車を取り巻く社会情勢や、製造ラインのひっ迫やブリッジ生産により、WRXに複数のボディを与えることは無理だ。
結局それは一部の車種だけを、ド外れた質量ダウンに持ち込むことの困難さを示す。
艤装ラインも無理が効かないはずだし、RA-Rはバランスドエンジンの採用で基本的に性能アップしている。
性能アップ=重量アップなので、それは軽量化を食いつぶす。
それでも「鬼の平川」は、10kgのダウンを実現した。
彼の脳内でありとあらゆるものをプラスマイナスした結果だ。
これまでもモドキはあったが、
GDBのRA-Rの後継では無かった。
吉永社長は、
「僕にできることは平川を社長にする事しかない」と言った。
その効果が着実に表れている。
やり方がメチャクチャ面白い。
ほぼ道楽でS208のスチールルーフを作り、
Sシリーズの鮮度を下げないようあっという間にうまく売りさばいた。
本来ならSシリーズに仕様変更差は認められない。
だが社長の権限で作ったら、
物凄く良いものが出来た。
軽さではカーボンが上を行くが鉄は撓る。
なのでその特性を活かし、
専用のサス設定でとんでもないものが出来た。
初代RA-Rに対して548.000円高い。
しかし「S208」と全く同じ、
モーターの様に回るエンジンが載っている。
ベースのSTIより104万8000円高いが、
STI記念車として苦労したようすが滲む。
やり切れて無い感は、
ベースにするスペックCが無いので止むを得ない。
30周年記念限定のRA-Rは、
たかが10kgだがされど10kgの軽量化だ。
苦労のあとは数値化に現れた。
平川さんらしい見える化だ。
パワーウエイトレシオを小数点以下3桁まで書く執念を見た。
タイプRA-R 4.498(1480kg 329PS)
STIベース 4.837(1490kg 308PS)
S208 4.589(1510kg 329PS)
S207 7.6.4(1510kg 328PS)
軽量化の主要アイテムは、
BBS18インチアルミホイール採用
ドライカーボン製エアロドアミラーカバー
ウインドウウオッシャータンク小型化4L→2.5L
フロントスポーツシート&リヤシート(ファブリック)
ジュラコン製シフトノブ
少しショボいが価格が安いから我慢できる。
むしろ、
行き過ぎたSに対して、
こういうクルマを待っていた。
ちなみにカーボンドアミラーカバーによる空力効果で、
フロントリフトを4%低減できる。
レスアイテムが凡庸だと笑ってはいけない。
ラインで外すだけでも大変だ。
ポップアップ式ヘッドライトウオッシャー
リヤワイパー&ウオッシャー
リヤフォグランプ
フロントフードインシュレーター
メルシート
大型フロア下アンダーカバー
ステンレス製サイドシルプレート
リヤシートセンターアームレスト
スペアタイヤ
ここに100万円払っても惜しくない。
S208と同等のバランスドエンジン
クラッチカバーとフライホイールもバランス取り
アクセル開閉時のトルク変化低減対応専用ECU
ボールベアリング・ツインスクロールターボ
低排圧マフラー&エキゾーストパイプリヤ
シリコンゴム製強化インテークダクト
インタークーラー強化シュラウド
低圧損エアクリーナー
カヤバ製ダンパー採用でスチールルーフのしなりを応用したサスチューン
18インチの専用ミシュラン製ハイグリップタイヤ採用
11:1クイックステアリング
Fモノブロック対向6ポッドキャリパー(シルバー塗装)/ドリルドローター
Rモノブロック対向2ポッドキャリパー(シルバー塗装)/ドリルドローター
ハイμブレーキパッド
何も目新しさは無いが、
平川さんの執念が見える。
だから朝一番でサインした。
2台ある。
誰か一緒に走らないか。
あの時、
何を言いたかったのか明らかにしよう。
このクルマはボロボロだった。
エンジンを掛けると耳慣れない音がした。
特徴的な回転異音だ。
ボールベアリングを使ったターボの軸から、
もう消耗しきったと思われる異音が出ていた。
並行して開発されたいわく付きのクルマだ。
実はこの開発を「生ぬるい」とバッサリ切った男がいる。
それが現在STIの社長を務める平川さんだ。
平川さんに初めてお目に掛かった時のことだ。
最初は彼が誰なのか解らなかったが、
名刺を交換し「衝突安全の平川」、
またの名を「鬼の平川」であると知った。
たった一人で居酒屋に行き、
スペックCにいくらの価値を付けるか。
平川さんにお目に掛かったのも初めてだし、渋谷さんにも初めてお目に掛かった。
間に居るのは藤貫さんだ。スバルマガジンにSVXを寄贈した太っ腹な好人物だ。
時はBRZの開発が佳境に差し掛かっていた。
今思えば、当然スバルグローバルプラットフォームも、ほぼ基本が出来上がっていた頃だろう。
そうなると、納得がいく。
歴代のSUBARUでこれほどすごいクルマは無かった。
そう褒めた時だ。
平川さんは右手を上げ、
S202を指差しながら、
「こんなのはまだ全然努力が足りません」とばっさり切り捨てた。
彼の言う「こんなの」は、
当然「初のスペックC」に行き着く。
何故ならS202は今のSシリーズとは全く違うクルマだった。
Sシリーズと言うより、
RA-Rの元祖ともいえる。
クルマから安全性や快適性を削ぎ落した、
カミソリのようなクルマなのだ。
ここは全くの憶測で、本人にその真意を聞いていないが、当たらずしも遠からずだ。
Spec-Cの「C」はコンペティションを指す。
つまり以前からGC8にもあった「RA」を、更にストイックに練り上げて競技ベースとして完成させた。
既に二代目WRXに「STi type RA」が存在した。それに対して90kgの軽量化を果たしたのがSpec-Cだった。
ここが崖っぷちのインプレッサと名付けた理由だ。
Spec-Cを、その当時購入の対象にできなかった理由は、90kgを絞り出すためにありとあらゆるものを削り取ったからだ。
特にエアコンを後付けできない事が、致命的な問題だった。GTユースも考えねばならぬ。
軽トラックならまだしも、WRXでは全く購入の対象にならなかった。
だが平川さんの眼には、スペCのコンプリートという点で、お眼鏡にかなわなかったのだろう。
Spec-Cの開発要点は、
1.車体の薄板化、部品の廃止2.バンパービーム等の構造簡略化3.燃料タンク、ウオッシャータンクの容量変更4.競技ベース車に割り切った仕様簡素化
の4点に集約される。
1についてはメーカーで本腰を入れただけあり、14品目の車体構成部品が板厚変更もしくは廃止された。
何とサブフレームまで廃止する徹底ぶりだった。
クルマの開発にかかわったPGMが旗を振らないと絶対にできない事だろう。
車体構成部品以外にも手が加えられ、軽量化バンパービームが開発された。それにより3kgの軽量化と、標準者と比較し1.2倍の剛性向上という結果を導いた。
内装品も徹底的に見直された。
まずステアリングビームを肉厚低減し、ブラケットの簡略化で軽量化した。
大胆にもエアバッグレスで実現している。
シートもサポートワイヤーを小型化したり、内部の徹底的に簡略化した。
シートベルトのリトラクタも変更して、調整パーツを取除き、メーターからレブカウンターや外気温系も取り除いて、徹底的に軽さを極めた。
シャシー関係は、デフマウントシステムの軽量化、ステアリングホイールとコラムの構成部品を削減して軽量化、軽量鍛造アルミホイールの開発、燃料タンクをモータースポーツ用に新規開発し、サブチャンバー付燃料ポンプを採用した。
エンジン性能の強化も忘れていない。
専用開発は3つの点に絞られた。
1.最大トルクを高める2.ふけあがりレスポンスを改善する3.高回転域を更に引き上げる
そのために、まずカムプロフィールを変更した。そしてバルブスプリングを吟味して選び、バラつきが出ないように組み付けた。
こうして8000回転まで回るエンジンが生まれたのだ。
ターボにも手を加え、以前から特別なクルマに採用している、IHI製のRHF5HB型ターボチャージャーに様々な工夫を凝らし、インペラーシャフトの回転フリクションを大幅に低減する事に成功した。
その結果過給レスポンスがターボ単体で10%も向上した。
但し管理が悪いと消耗も激しかった。
冒頭の個体は、完全に音を上げる寸前の痛々しいクルマだった。
インテークマニホールドも専用品になり、排気系もマフラー容量を上げ、競技車にふさわしい耐熱性の向上も達成した。
シャシーはアンチノーズダイブを強化し、フロントをハイキャスター化して、旋回性能も向上させた。
クロスメンバーも変更して、パフォーマンスロッドが与えられた。
当然取り付け部の剛性向上も図られ、サブフレーム廃止を補っている。
リヤサスはアンチスクオートを強化され、アンダーステアを減らしトラクション確保に寄与している。
リヤスタビリンクを樹氏から金属に変え、ロール剛性を高め、あの名タイヤ「RE070」の誕生につながった。この時も車体を10mm下げて低重心化を図っている。
トランスミッションオイルクーラーを装備し、インタークーラーウオーターㇲプレィをトランクに移設した。
プロペラシャフトにも手を加え、衝突安全性能を引き上げるためにコラプス構造を追加した。
あの時代ならではの開発だ。今ではベースに対するSpec-C並みの軽量化はできない。
Spec-CはGDBを開発する途中で、安全性を大幅に引き上げる必要性から車重が重くなった。
エンジンもその時に力量のある開発者が存在せず、そのまま使わざるを得なかった。
そのままだと競技に支障が出る恐れが生じて、急遽並行して開発が始まったのだ。
だからGDB発表の僅か一年後に出すことが出来た。
それを知っているからだろう。平川さんはバッサリと切った。
軽量化の主要アイテムはボディの軽量化で、それだけで20~30kgを減らした。
GDBはグローバル展開する戦略車で、しかも全世界で一位を獲る野望を持って生まれた。そうなると全世界の衝突規制も余裕をもってクリアしなければならない。
そのコンセプトで開発したボディを、あえて切り崩し軽量化したから、Spec-Cは国内専用ボディと割り切られている。
従ってボディワークまで簡略化され、軽量化を図られた結果、冒頭のクルマの様に5万km少しの走行距離で、標準ボディと比べ物にならないほどガタガタになってしまった。
ところが、ボディだけでは数十キロしか達成できず、内張やエアコンや、競技に必要無いものはすべて外し、何とか百kg弱の軽量化を達成した。
平川さんは、Spec-Cは基幹部分のレスが全てなので、
そこに触れずに軽量化しないと意味がないと言いたかっただろう。
しかし逆もまた真であろう。
Spec-Cの技術開発で得たモノは、
その後の量産のベース車にも対応できる。
涙目や鷹の眼に受け継がれた。
結局、丸目の開発者はSTIの企画部長となり、歴代で最高の性能を誇る「特別な」RA-Rを誕生させた。
IMPREZA WRX STI TYPE RA-R
このクルマにはシリアルナンバーを与えなかったが、
僅か300台の限定であっという間に売り切れた。
新車価格は破格値の税別408万円だった。
昨今の自動車を取り巻く社会情勢や、製造ラインのひっ迫やブリッジ生産により、WRXに複数のボディを与えることは無理だ。
結局それは一部の車種だけを、ド外れた質量ダウンに持ち込むことの困難さを示す。
艤装ラインも無理が効かないはずだし、RA-Rはバランスドエンジンの採用で基本的に性能アップしている。
性能アップ=重量アップなので、それは軽量化を食いつぶす。
それでも「鬼の平川」は、10kgのダウンを実現した。
彼の脳内でありとあらゆるものをプラスマイナスした結果だ。
これまでもモドキはあったが、
GDBのRA-Rの後継では無かった。
吉永社長は、
「僕にできることは平川を社長にする事しかない」と言った。
その効果が着実に表れている。
やり方がメチャクチャ面白い。
ほぼ道楽でS208のスチールルーフを作り、
Sシリーズの鮮度を下げないようあっという間にうまく売りさばいた。
本来ならSシリーズに仕様変更差は認められない。
だが社長の権限で作ったら、
物凄く良いものが出来た。
軽さではカーボンが上を行くが鉄は撓る。
なのでその特性を活かし、
専用のサス設定でとんでもないものが出来た。
初代RA-Rに対して548.000円高い。
しかし「S208」と全く同じ、
モーターの様に回るエンジンが載っている。
ベースのSTIより104万8000円高いが、
STI記念車として苦労したようすが滲む。
やり切れて無い感は、
ベースにするスペックCが無いので止むを得ない。
30周年記念限定のRA-Rは、
たかが10kgだがされど10kgの軽量化だ。
苦労のあとは数値化に現れた。
平川さんらしい見える化だ。
パワーウエイトレシオを小数点以下3桁まで書く執念を見た。
タイプRA-R 4.498(1480kg 329PS)
STIベース 4.837(1490kg 308PS)
S208 4.589(1510kg 329PS)
S207 7.6.4(1510kg 328PS)
軽量化の主要アイテムは、
BBS18インチアルミホイール採用
ドライカーボン製エアロドアミラーカバー
ウインドウウオッシャータンク小型化4L→2.5L
フロントスポーツシート&リヤシート(ファブリック)
ジュラコン製シフトノブ
少しショボいが価格が安いから我慢できる。
むしろ、
行き過ぎたSに対して、
こういうクルマを待っていた。
ちなみにカーボンドアミラーカバーによる空力効果で、
フロントリフトを4%低減できる。
レスアイテムが凡庸だと笑ってはいけない。
ラインで外すだけでも大変だ。
ポップアップ式ヘッドライトウオッシャー
リヤワイパー&ウオッシャー
リヤフォグランプ
フロントフードインシュレーター
メルシート
大型フロア下アンダーカバー
ステンレス製サイドシルプレート
リヤシートセンターアームレスト
スペアタイヤ
ここに100万円払っても惜しくない。
S208と同等のバランスドエンジン
クラッチカバーとフライホイールもバランス取り
アクセル開閉時のトルク変化低減対応専用ECU
ボールベアリング・ツインスクロールターボ
低排圧マフラー&エキゾーストパイプリヤ
シリコンゴム製強化インテークダクト
インタークーラー強化シュラウド
低圧損エアクリーナー
カヤバ製ダンパー採用でスチールルーフのしなりを応用したサスチューン
18インチの専用ミシュラン製ハイグリップタイヤ採用
11:1クイックステアリング
Fモノブロック対向6ポッドキャリパー(シルバー塗装)/ドリルドローター
Rモノブロック対向2ポッドキャリパー(シルバー塗装)/ドリルドローター
ハイμブレーキパッド
何も目新しさは無いが、
平川さんの執念が見える。
だから朝一番でサインした。
2台ある。
誰か一緒に走らないか。