ベントレーをチューニングして販売する会社がある。
ドイツにあるマンソリーさんの会社だ。
ヨーロッパを源流とするブランドを専門にチューニングすることで名高い。
その技術力は凄く高い。
試乗した時はまだ6000キロにも満たない、
ほとんど新車の状態だった。
物凄く高性能で質感も高く、
値段を考えなければ素敵なクルマだ。
このベントレーのオーナーは、
フェラーリだと二人しか乗れないので、
この面白そうなクルマを選んだと語っていた。
このクルマに乗った時から、
クルマには魂が宿ると思うようになった。
もともと日本車の内装にはエレガントさが欠ける。
超高級車と日本の大衆車を比較すること自体が無意味だと言う人もいるかもしれないが、
それは断じて違う。
日本とヨーロッパには深い文化的背景がある。
クルマのインテリアに関して欧州の色彩感覚には優れた所が多い。
ところが日本では何かに抑え込まれたような卑屈感がある。
本来ならば畳や障子の白木と和紙の微妙な、
豊かなアイボリーの色彩感覚があるはずなのに、
なぜか車のインテリアでその優れたイメージを抑え込んでしまう。
スバルも優れた和紙と白木の世界を、
R2で具現化したが、
軽自動車の市場ではあまりにも頭抜けていて支持する人の方が少なかった。
マンソリー コンチネンタルGTに乗ると、
高性能なスバル車とよく似た味を感じた。
このクルマを借りた時、
「こういうクルマに一度乗っておけ」と親切な先輩の言葉だけを信じ、
スペックや取り扱い方法を一切知らぬままコクピットに収まった。
昔から知っていたかの如く、
自然に指が必要な部分に触れ、
マニュアルなど読まなくても自由自在に操る事が出来た。
クルマを返す前に綺麗に洗車し、
ボンネットを開けて初めて物凄く美しいエンジンが収まっていることを知った。
フォルクスワーゲン製のW12気筒エンジンが、
マンソリーチューンで560馬力から630馬力に高められ、
駆動方式はフルタイム4WDだった。
ただただ驚嘆するしかなかった。
高出力のAWDに乗りなれていることもあり、
特に動力性能的には物凄いと思わなかったが、
質感が素晴らしかった。
インテリアやエクステリアは勿論の事、
ベッタリと張り付いたように走る走行感覚が素晴らしかった。
インテークマニホールドを見ればわかるように、
実に手の込んだ調律を施されたエンジンだ。
これは絹の様な滑らかさで回転し、
スバルの水平対向6気筒エンジンもターボで過給すれば、
きっとあのような味になるのだろうと思った。
回転バランスに優れたエンジンでも、
軽量化や量産技術の向上で、
最近のインテークマニホールドはエンプラ製が多い。
本気で作りこむならばアルミの鋳物が良いに決まっている。
やはりコストや生産工程を考えると、
金属より樹脂製の方が素材として扱いやすい。
先の東京出張で、
大変良い仕入れができた。
エンジンの変遷も参考になる。
シルバーのアウトバックに心ときめき、
エンジンルームを開けて連れ帰る事を決心した。
随分凝った作りのインテークマニホールドが付いているし、
この頃のテールランプは立体的な透明感があった。
走行距離も年式から考えられない数値で、
アイボリーのレザーシートがハートに刺さった。
もう一台の獲物はレガシィツーリングワゴンだ。
この時は開発するメンバーも大変だった。
発表の前年に世界をリーマンショックが襲った。
四代目に比べ自由になる資金も少なく、
五代目レガシィの開発者達は、
デビューさせるまでの間さぞかし苦しんだはずだ。
それでも日月さんの苦労が実り、
レガシィ専用エンジンはバリオカムを持ってデビューした。
初めてスバルが手に入れたシステムだった。
だがインテークマニホールドは、
残念だがエンプラになった。
サイズをアップして価格を抑え込むという離れ業も繰り出し、
このクルマの成功が現在の姿への橋渡しとなった。
五代目レガシィのロバスト性も凄い。
この頃から10万キロなど過走行の内に入らぬほど、
更にロバスト性が高まった。
ロバスト性とは外的動乱があるものに影響を与えようとした場合、
人間で言う病気に対する抵抗力のように、
それ自体が影響を受けぬよう阻止する性質を指す。
スバルは昔からロバスト性の高い設計を得意とする。
航空機メーカーの血統だ。
アメリカ大陸で使い倒されることを考えて、
徹底的に作りこまれた五代目レガシィに、
発売当初から敬意を表している。
何しろ広くて頑丈で壊れなくて、
お客様に安心して販売できるからだ。
それが世界的な高評価に繋がり、
最近ではスバルの中古車相場が高止まりしている。
五代目でもアイボリー内装を選べたが、
なぜか全く人気が無い。
これは18インチのホイールサイズを採用するSパッケージなので、
外観がスタイリッシュで格好良く速そうに見える。
だがターボ車は売れなかった。
エコカー補助金がもらえるクルマと真逆に向かっていたからだ。
本格的に人気が出たのは、
FA20型直噴ターボエンジン搭載車の誕生後だ。
やはりレガシィには4気筒ターボのスポーツライクな特性が馴染む。
6気筒エンジン搭載車もアウトバックに存在したが、
再三それの良さをお客様に紹介しても、
実際に買っていただけた数は少ない。
だがWRXのS4を作り出した途端に、
4気筒のSPORT系が復活した。
今の現状を見ると、
モータースポーツのイメージがある4気筒搭載車も良く売れている。
となれば、
スバルブランドとして4気筒のスポーツモデルを徹底的に極めるべきだろう。
しかもWRCで培った技術が生きるターボモデルで行くべきだ。
というのも昔のスバルを別にして、
スバルには自然吸気の高性能エンジンを開発する素地が無かった。
4代目レガシィで4カム16バルブの自然吸気エンジンを、
遂に等長等爆化して高性能化した。
しかしそれ以上能力を引き上げることなく、
ツインスクロールターボエンジンの陰に霞んだ。
この試作車もいい線まで行っていたのに、
結局日の目を見なかった。
エンジン開発が進まなかったからだ。
軽いFWDと相性の良かった最初のSIシャシーは、
STIの手で調律されたパワートレーンとジャストフィットしたはずだ。
NAではだめなのかと諦めていたところへ、
まるで天からの贈り物の様にFRスポーツカー開発計画が舞い降りた。
このBRZ用に新開発したNAのFA20型水平対向エンジンは、
まさにNAコンセプトのSTIインプレッサに欲しかったエンジンだ。
軽さを極限まで追求し、
カミソリのようなバランスの上で成り立っている。
太刀のようなWRX STIとは別格のクルマだろう。
発表から5年が過ぎ、
スバルは自然吸気エンジンの総合開発力を、
大幅に高めた事を証明した。
乾さん、また開発メンバーの皆さん。
本当におめでとうございます。
その結果、
STIの仕事に大きな幅が広がった。
動力性能に触れないクルマを、
彼らは決して出すべきではないと考えているからだ。
彼らがコンプリートカーを出す上で、
非常に重要なことは、
ベース車の基礎能力だ。
基本的なクルマを造る、
スバルの技術レベルがより一層高まれば、
これまで以上のコンプリートカーを世の中に出せる。
今回のクルマ作りで一番印象に残ったのは、
インテークマニホールドの設計変更だ。
中津スバルにはFA20の誕生当時のエンジンが、
ユニットの状態で保存されている。
最新のエンジンは全て樹脂製のインテークマニホールドに変わりつつあるので、
この新型エンジンも樹脂製のインテークマニホールドを身に着けていた。
ブログの冒頭に出ていたEJ25型エンジンも、
当初はアルミ製で内径を拡管した構造になっている。
BRZは今回のアルミ化でインテークマニホールドを拡げた。
吸気系が引っ張り上げられた。
そして最も肝心な排気系もセットで見直した。
エンジンを下から覗くと排気ポートが見える。
そこからボルトが伸びていて、
ここにフロントエキゾーストパイプが締結される。
上にあるフロントエキゾーストパイプの径を拡大し、
大幅に排気抵抗を減らした。
貧相さを補うための、
四角い樹脂カバーも必要なくなった。
前のレポートで述べたように、
マイナーチェンジ前のBRZに比べ大幅にトルク特性が向上した。
一番の理由は排気抵抗の低減だ。
新型用のエンジンを開発するにあたり、
フロントエキゾーストパイプの排気抵抗低減に注力した。
それによる性能感度の向上も理由の一つだ。
コンパクトにまとめられた排気管を、
スペースを十分考えながら、
2.3mmから3.6mm程度径を拡大した。
それに前述した吸気系の改善もセットし、
吸排気全般の通気抵抗を大きく減らすことが出来た。
だから性能をアップした207馬力エンジンから、
Sシリーズの質感とレスポンスを感じるのだ。
まだ未知の領域であるレブリミット直前の味を、
エンジンの慣らしが終わったら存分に愉しもう。
こうなると更に次を期待したい。
それがZ計画だ。
STIが触れるべきコンプリートカーは、
ボディとパワーユニットの双方に手を加えたクルマだ。
スバル本体がNAエンジンを大きく底上げする力を付けたのなら、
STIにもっと贅沢なクルマ作りを任せるべきだ。
今ある水平対向6気筒を、
究極の姿に磨き、
ピュアスポーツカーの心臓部に押し込む。
STIにマンソリーのようなコンプリートカーを作らせよう。
スバルがやらなくても良い。
STIに具現化させてほしい。
それを求めるお客様は確実にいるはずだ。
中津スバルに大排気量のスバル車が多い理由は、
それらの味が忘れられないからだ。
ベントレーに出会ってから、
クルマに対する考え方に少し変化が生じた。
水平対向六気筒を搭載したクルマを愛するお得意様も、
今では確実に増えている。
その人達の期待に応えられるのは、
やはりSTIしかないのだ。