後ろに見えるのは霧ではない。 地上から湧き上がる水蒸気が雲に変わったのだ。ここは標高2000メートルの世界だ。
ここに到達するまでの道程は、高速道路の走りから始まった。飛ばせば飛ばすほど安定する。気持ちが良かった。
そして一般路を走った。
交通量の少ない国道は、S207にとって、持ち味をより引き出せる場所だ。
この時は驚いた。 遠くが見えないのだ。突然白いカーテンの様なモノが左方向の景色を遮断していた。
次のコーナーを曲がると、恐ろしいほどの雨が降り、道路がまるで川のようになった。 今年の夏は天候が激変する。まさにNBR24hを思い出すような天候だった。
流石だ。
このように天候が急変し、道路状況が劣悪を極めた時の、シンメトリカルAWDの安定した走行には、どんな人でも脱帽するしかないだろう。 あっという間に路面が乾いた。本当によく曲がる。
このシャシー性能は、コーナーが現れるたびに、ドライバーを感動の坩堝に誘い込む。
高速ワインディングロードの操縦性能は、甘美の一言だ。
そして更に面白さを極めるために次のステージに移った。 林道も悪くない。
でもS207で面白く走れるのは、このシチュエーションが限界だろう。 時速40km台に入るような状況では、本領を発揮できない。
もちろん買い物や通勤に便利なクルマでもない。
使えなくは無いが、
そんな事に使っても、ちっとも面白くないからね。
低速領域での快適性が行き過ぎると、「S」らしく無くなる。ただ日本市場で売るには意識せざるを得ない。
だからこのクルマにはダンプマチックが採用されている。コンフォートバルブを追加した、ビルシュタインの特別な脚だ。
本当はもっと低速でよく動き、高速になればなるほど路面にへばりつく脚が良い。
でもそれが一番難しく、1000万円を超えるクルマの領域になる。
本来ならば、SシリーズはMT専用開発で1.4トン以下を狙うのが理想だ。
今のような市場環境を踏まえ、その領域をRA-Rに任せると良い。
一発面白いクルマも期待したいところだ。そのように割り切ると、別の鋭さが出て面白くなる。
最近のクルマは快適性能と安全性を重視しているので、ほとんど1.5トンを超えている。
S207の走行距離は、ようやく4000kmを超えた。 1万キロ乗らないと、
本当の意味で慣らしは終わらない。
加納さんに収めたイエローエディションも、2000キロを超えようとしていた。 NBRのステッカーを貼り、「物凄く良い」と気に入っていた。
それなのに内緒で売り払ってしまった。
惜しいことをした。1万km乗って本当の性能を知ってからでも遅くはないのに。
加納さんは、「せっかく当選したのにすぐ売るのは申し訳ない」と思ったようで、しばらく秘密にされていた。
6月の事だ。ある場所で目の前に売った覚えのあるS207が現れた。S207はセリにかけられ哀れだった。
連れて帰っても良いと思ったが、「売り手」は何か勘違いをしていたようだ。
1か月間、買い手がつかぬまま繰り返しセリにかけられた。結局最後までそこでは買い手がつかぬまま、突然プツリと姿を消してしまった。
先月の中頃の事だ。
すると東京で、別のイエローエディションが現れた。全くの未使用車で走行距離はゼロだった。
そのクルマが競り落とされた時、価格は半年で70万円も下落した。
実はそれでも高いと思った。
その理由は600万円の壁だ。
残念ながらその上を目指す素材がない。惜しいがSTIは役不足になった。
彼らがいくら優秀でも、素材が4気筒のボクサーターボでは、600万円を超えるクルマを作れ無い。
たとえS207が一日で売り切れた凄いクルマでも、新車の価格はベース車が555万円だ。
台数限定のプレミアムカーだから売り切れたが、
その価格を超える価値は無い。
買う買わないはもちろん自由だ。価値観は個人が決めるものだし。
でもプレミアムカーの世界では、「所詮4気筒」なのだ。
あのポルシェがダウンサイジングの世界に降りてきた。
だからこそSTIは上を狙うべきだ。EJ20のボクサーターボユニットでは、今の値付けが限界だ。
ところで加納さんは何が欲しくて手放したのか。それは以前紹介した「赤ブリ」だった。 このクルマが改善されていく様子を、興味深く見ていて下さったようだ。
実は加納さんには既に黒鰤をお譲りしている。
このクルマに感激し、
スバルを見る目が変わった。
右から左にクルマを流しているわけではないので、
クルマの質も当然高くなっている。
黒鰤には「天然モノ」持つ味の良さがあったはずだ。
そんなことを考えながら、
S207を道の脇に寄せエンジンを止めた。
路傍に薔薇苺が群生していた。
食べ時に出会えるのは千歳一隅一隅のチャンスだ。
緑色から完熟に変わると、
指でつまんで、
そっと引くだけでポロリと採れる。
髭が生えているが、
それがたまらなく良い。
ドイツで毛の生えた付け合わせの花を食べた。
あれと同じで歯触りが良い。
そしてこの実の中から爽やかな甘さが広がる。
黒鰤や赤鰤と、
この薔薇苺の味がどこかで繋がった気がした。
路傍に止めた理由は薔薇苺を見つけたからではない。
この道を気持ちよく走っていて、
思わぬ衝撃を左前輪から感じた。
S207では消えたと思っていたが、
この速度領域でなぜなのか。
納得がいく理由が欲しくてクルマを停めた。
来た道を振り返る。
あのコーナーの向こうに、
気が付かない何かがあった。
カーブの頂点まで来た。
あのS字カーブが衝撃を受けた場所だ。
近ずくと走行中は気にも留めなかった側溝が現れた。
スバルと相性が悪い周波数を感じた。
遠くに見える電柱まで戻れば、
原因が良く解りそうだ。
電柱を通り過ぎて、
その先から振り返った。
右手方向に電柱が見える。
さあ加速だ。
左いっぱいまでクルマを寄せ、
ステアリングを右に切ると、
この位置に来る。右側のガードレールの切れ目に大きな木がある。
それを目印に左コーナーを攻める。
よく見たらAPEXの刻印がある(笑)
これは歩かないと気が付かなかった。
そこから右側のガードレールの頂点を狙う。
ガードレールの頂点から、
クルマのラインがぴたりと狙えた。
この目線だとなだらかで何の問題もない溝が正面にある・・・ようにしか見えない。
そこを気に留めず通り過ぎると、
タイヤがこの辺りを通過するはずだ。
さあ、次のコーナーへ・・・
と思った瞬間に「がんっ」と強烈な衝撃を感じた。
あの突っ張ったような独特な動きは、
レガシィB4が発売になった平成10年ごろから徐々に顕著になった。
この起伏で何が突っ張るのか。
R2も苦手としていた。
こちらの場合は後輪のダンパーだ。
続く・・・・
ここに到達するまでの道程は、高速道路の走りから始まった。飛ばせば飛ばすほど安定する。気持ちが良かった。
そして一般路を走った。
交通量の少ない国道は、S207にとって、持ち味をより引き出せる場所だ。
この時は驚いた。
次のコーナーを曲がると、恐ろしいほどの雨が降り、道路がまるで川のようになった。
流石だ。
このように天候が急変し、道路状況が劣悪を極めた時の、シンメトリカルAWDの安定した走行には、どんな人でも脱帽するしかないだろう。
このシャシー性能は、コーナーが現れるたびに、ドライバーを感動の坩堝に誘い込む。
高速ワインディングロードの操縦性能は、甘美の一言だ。
そして更に面白さを極めるために次のステージに移った。
もちろん買い物や通勤に便利なクルマでもない。
使えなくは無いが、
そんな事に使っても、ちっとも面白くないからね。
低速領域での快適性が行き過ぎると、「S」らしく無くなる。ただ日本市場で売るには意識せざるを得ない。
だからこのクルマにはダンプマチックが採用されている。コンフォートバルブを追加した、ビルシュタインの特別な脚だ。
本当はもっと低速でよく動き、高速になればなるほど路面にへばりつく脚が良い。
でもそれが一番難しく、1000万円を超えるクルマの領域になる。
本来ならば、SシリーズはMT専用開発で1.4トン以下を狙うのが理想だ。
今のような市場環境を踏まえ、その領域をRA-Rに任せると良い。
一発面白いクルマも期待したいところだ。そのように割り切ると、別の鋭さが出て面白くなる。
最近のクルマは快適性能と安全性を重視しているので、ほとんど1.5トンを超えている。
S207の走行距離は、ようやく4000kmを超えた。
本当の意味で慣らしは終わらない。
加納さんに収めたイエローエディションも、2000キロを超えようとしていた。
それなのに内緒で売り払ってしまった。
惜しいことをした。1万km乗って本当の性能を知ってからでも遅くはないのに。
加納さんは、「せっかく当選したのにすぐ売るのは申し訳ない」と思ったようで、しばらく秘密にされていた。
6月の事だ。ある場所で目の前に売った覚えのあるS207が現れた。S207はセリにかけられ哀れだった。
連れて帰っても良いと思ったが、「売り手」は何か勘違いをしていたようだ。
1か月間、買い手がつかぬまま繰り返しセリにかけられた。結局最後までそこでは買い手がつかぬまま、突然プツリと姿を消してしまった。
先月の中頃の事だ。
すると東京で、別のイエローエディションが現れた。全くの未使用車で走行距離はゼロだった。
そのクルマが競り落とされた時、価格は半年で70万円も下落した。
実はそれでも高いと思った。
その理由は600万円の壁だ。
残念ながらその上を目指す素材がない。惜しいがSTIは役不足になった。
彼らがいくら優秀でも、素材が4気筒のボクサーターボでは、600万円を超えるクルマを作れ無い。
たとえS207が一日で売り切れた凄いクルマでも、新車の価格はベース車が555万円だ。
台数限定のプレミアムカーだから売り切れたが、
その価格を超える価値は無い。
買う買わないはもちろん自由だ。価値観は個人が決めるものだし。
でもプレミアムカーの世界では、「所詮4気筒」なのだ。
あのポルシェがダウンサイジングの世界に降りてきた。
だからこそSTIは上を狙うべきだ。EJ20のボクサーターボユニットでは、今の値付けが限界だ。
ところで加納さんは何が欲しくて手放したのか。それは以前紹介した「赤ブリ」だった。
実は加納さんには既に黒鰤をお譲りしている。
スバルを見る目が変わった。
右から左にクルマを流しているわけではないので、
クルマの質も当然高くなっている。
黒鰤には「天然モノ」持つ味の良さがあったはずだ。
そんなことを考えながら、
S207を道の脇に寄せエンジンを止めた。
路傍に薔薇苺が群生していた。
緑色から完熟に変わると、
それがたまらなく良い。
あれと同じで歯触りが良い。
そしてこの実の中から爽やかな甘さが広がる。
黒鰤や赤鰤と、
この薔薇苺の味がどこかで繋がった気がした。
路傍に止めた理由は薔薇苺を見つけたからではない。
思わぬ衝撃を左前輪から感じた。
S207では消えたと思っていたが、
この速度領域でなぜなのか。
納得がいく理由が欲しくてクルマを停めた。
気が付かない何かがあった。
あのS字カーブが衝撃を受けた場所だ。
近ずくと走行中は気にも留めなかった側溝が現れた。
スバルと相性が悪い周波数を感じた。
原因が良く解りそうだ。
右手方向に電柱が見える。
左いっぱいまでクルマを寄せ、
ステアリングを右に切ると、
それを目印に左コーナーを攻める。
これは歩かないと気が付かなかった。
ガードレールの頂点から、
クルマのラインがぴたりと狙えた。
この目線だとなだらかで何の問題もない溝が正面にある・・・ようにしか見えない。
タイヤがこの辺りを通過するはずだ。
と思った瞬間に「がんっ」と強烈な衝撃を感じた。
レガシィB4が発売になった平成10年ごろから徐々に顕著になった。
こちらの場合は後輪のダンパーだ。